
オランダはゴッホ、フェルメール、レンブラントを生み出した国。遡れば、ヒエロニムス・ボスから、17世紀の黄金絵画、20世紀はピート・モンドリアンやウィレム・デ・クーニング、マウリッツ・エッシャーなど近代画家も多く輩出している。
凄いのが、ゴッホ、フェルメール、レンブラントの最高傑作が自国にあること。レオナルド・ダ・ヴィンチ(伊)の最高傑作はフランスにあり、ヤン・ファン・エイク(ベルギー)の最高傑作はイギリスにあり、ブリューゲル(ベルギー)の最高傑作はオーストリアにある。
名画は世界中からラブコールを受け、祖国を飛び出す。旅人であり、他国に嫁ぐ。しかし、オランダはレンブラントの自画像を国が250億円も出して買い戻すほど、アート愛が強い。レンブラントやフランス・ハルスは紙幣の肖像にもなっている。さらに、美術館は撮影自由。祖国の財産を大切にしながら、市民に開放する。それが、オランダという国。
400以上の美術館や博物館がある中から、実際に訪れたオランダおすすめの美術館を紹介する。
- なぜオランダは“アートの楽園”なのか?
- 世界的画家がオランダに生まれた理由
- 現地で感動!オランダのおすすめ美術館5選【エリア別】
- オランダ美術館めぐりを楽しむプラン・ルート
- オランダ無料美術館(パブリックアート)
なぜオランダは“アートの楽園”なのか?

オランダは日本の九州と同じ面積ほどの小さな国土にもかかわらず、世界屈指の美術館と巨匠の作品が揃い、まさに“アートの楽園”と呼ぶにふさわしい国。その理由は、歴史・文化・風土が織りなす深い芸術的土壌にある。
17世紀“オランダ黄金時代”の到来

オランダが美術大国として名を馳せた原点は、17世紀に訪れた“黄金時代”にある。スペインからの独立を経て、プロテスタントを国教とする市民社会が成立すると、王侯貴族ではなく一般市民が芸術のパトロンとなった。

海外との貿易によって栄え、オランダは当時のヨーロッパで最も裕福な国になる。金持ちの商人や医師、職人などが自宅に飾るための絵画を注文し、芸術の需要が爆発的に高まった。この時代にレンブラント、フェルメール、フランス・ハルスらが活躍し、オランダ独自のリアリズムと室内画の美が確立されていく。
市民から生まれた写実主義と光の技法

オランダ絵画の特徴は、写実性と光の描写。宗教や神話を題材にすることの多かった当時のヨーロッパ絵画に対し、オランダでは台所や街角、市井の人々といった日常の光景を描く絵が好まれた。

フェルメールは、窓から差し込むやわらかな自然光を巧みに描写することで、静寂と詩情を内包する室内画を生み出した。オランダ絵画は、目に見える現実を超えた“心の風景”を表現した。
風景画や静物画の誕生

今日では当たり前のように眼にしている風景画や静物画が広まったのもオランダ黄金時代の絵画から。市民や商人がパトロンとして芸術を支える力を持つようになり、宮廷絵画ではなく、「自宅に飾るための絵画」の需要が爆発的に増加。それまで主流だった宗教画や神話画に代わって、日常の風景や花や果物などを描いた絵が中心になっていく。オランダの黄金時代の絵画がなければ、アートの歴史と発展は大きく変わっていた。
世界的画家がオランダに生まれた理由

レンブラント、フェルメール、ゴッホ、モンドリアン、エッシャー。多くの世界的画家を生んだ理由のひとつは、表現の自由が早くから保障されていたことも素通りできない。
王政やカトリック教会の厳格な規律が支配する他国と異なり、オランダでは芸術家が自由に主題や様式を選ぶことができた。さらに、経済的に安定した市民社会の中で、絵画は生活の一部として浸透し、芸術家の活躍の場が自然と広がっていった。

21世紀の現在も、オランダの街を歩いて感じる言葉が「自由」である。ハワイやグアムと同じような楽園の空気がオランダには流れている。
美術教育とコレクションの公的支援

オランダでは、芸術が国の基盤を支える重要な文化と認識されており、国家や自治体による支援が手厚い。美術系の高等教育機関も多く、若いアーティストたちは体系的に技術を学び、創作活動を続けられる環境が整っている。
2022年には国の税金250億円を使ってフランスからレンブラントの自画像をオランダに買い戻した。公的資金によるアート購入制度や、若手芸術家への助成金なども整備されており、美術館も積極的に作品の収集と展示を行っている。芸術が特権階級のものではなく、社会全体の財産として保護されているのがオランダの大きな特徴である。
美術館ネットワークの充実

国土は九州ほどの広さでありながら、オランダには400以上の美術館や博物館がある。アムステルダム、デン・ハーグ、ユトレヒト、ロッテルダム、オッテルローなど、各都市がそれぞれ個性的な施設を持ち、美術館同士のネットワークも充実している。
一つの街で複数の美術館を巡ることができ、国際的な展覧会も頻繁に開催される。これにより、訪れる者は時代もジャンルも越えて多彩なアート体験を味わえる。
芸術と風土、宗教観の影響

オランダの自然環境もまた、芸術に大きな影響を与えている。運河が多い土地柄、広く低い空と変化に富んだ光が日常風景の中にある。干拓によって人間の手で造られた土地は、自然と人間との関係を常に意識させる。

また、プロテスタントの文化的価値観が過剰な装飾を避け、内面的な精神性や静けさを大切にした。この精神性は、フェルメールの沈黙に満ちた室内画や、レンブラントの内省的な自画像、ゴッホの孤独と希望が交錯する筆致に色濃く表れている。

オランダの美術は、国家・市民・自然・宗教が折り重なる土壌から生まれた奇跡とも言える。訪れる者は、ただ名画を鑑賞するだけでなく、アートが生まれた国の“呼吸”を感じる。オランダはまさに、芸術を「見る」から「感じる」へと昇華させる、アートの楽園である。
現地で感動!オランダのおすすめ美術館5選【エリア別】
オランダは、芸術と文化が息づく国であり、世界中のアートファンを魅了してやまない。特に美術館の充実度は群を抜いており、都市ごとに特色ある施設が点在している。ここでは、アムステルダム、デン・ハーグ、オッテルローのエリア別に、現地で訪れたおすすめの美術館5選を紹介する。
アムステルダムのおすすめ美術館

アムステルダムは、17世紀の黄金時代の巨匠から現代アートまで幅広い芸術に触れられる都市。主要美術館は、ミュージアム広場(Museumplein)という一つのエリアに隣り合って建てられ、徒歩5分圏内に集まっている。この3館を1日で巡るのが、アムステルダムの王道プラン。チケットは市立美術館の他は事前予約が必要。特にゴッホ美術館は数週間先まで売り切れることが多いので、早めの入手をおすすめする。
アムステルダム国立美術館

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レンブラント《夜警》、フェルメール《牛乳を注ぐ女》を所蔵
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オランダの巨匠が一堂に会する"栄誉の間"
- オランダの絵画の歴史を一度に堪能できる
ライクス・ミュージアムと呼ばれるオランダ最大の国立美術館であり、レンブラントの《夜警》やフェルメールの《牛乳を注ぐ女》など、"栄誉の間"では、17世紀オランダ絵画の傑作が一堂に会する。

建物自体もネオ・ゴシック様式の美しい外観を持ち、芸術作品と建築美の両方を楽しめ、年間220万人以上が訪れる。

所蔵品100万点うち約8,000点を展示しているので、全部を見るのに少なくとも3時間はかかる。美術館をハシゴするなら、午前中の早めの時間がおすすめ。
※チケットの入手方法や展示作品などは下記の記事を参照ください。
ゴッホ美術館

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ゴッホの代表作を200点以上収蔵
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テオとの手紙や年表展示
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一人の画家に特化した美術館で世界一の来館者数
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの作品を中心に展示する美術館。《ひまわり》《花咲くアーモンドの木の枝》《黒い鳥のいる麦畑》《アルルの寝室》《ゴーギャンの椅子》《アイリス》などの代表作を含む200点以上の作品を所蔵している。

弟テオとの書簡や年表展示を通じて、ゴッホの生涯と芸術への情熱を深く理解できる。

入場制限を設け、毎日チケットが売り切れるにもかかわらず、年間150万人以上が訪れ、一人の画家に特化した美術館としては世界一の来館者数。なぜゴッホが世界一愛される画家なのか、その理由が深くわかる美術館。
※チケットの入手方法や展示作品などは下記の記事を参照ください。
アムステルダム市立美術館

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モンドリアン、マレーヴィチなど現代アートの宝庫
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白いバスタブ型の外観が目印
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当日券もあり、ゆったりと鑑賞できる
モンドリアン、マレーヴィチ、ジャコメッティなど、現代アートの巨匠たちの作品を多数所蔵する美術館。

白いバスタブ型の特徴的な外観が目印で、内部では絵画、彫刻、デザイン、映像作品など多岐にわたる展示が行われている。

シンプルな展示が多いオランダの美術館の中でも、空間をアートに彩り、歩いているだけで"芸術浴"ができる。

年間の来館者数は70万人なので、当日券でも入れ、館内もゆったりと鑑賞できる。
※チケットの入手方法や展示作品などは下記の記事を参照ください。
デン・ハーグのおすすめ美術館

アムステルダムとロッテルダムに次ぐオランダ第3の都市デン・ハーグ。オランダの政治・行政の中心地であり、アムステルダムとは異なる落ち着きと深みのある芸術体験ができる。アムステルダムが「量」で圧倒するなら、デン・ハーグは「質」で魅了する場所。エッシャー美術館やビネンホフ(オランダ国会議事堂)などの観光スポットが点在しており、1日でデン・ハーグの文化を満喫できる。
マウリッツハイス王立美術館

デン・ハーグといえば、マウリッツハイス王立美術館。17世紀の宮殿を改装した建物で、天井や壁の装飾、シャンデリアまでが優雅。

オランダ絵画の黄金時代を象徴する作品が宝石のように展示されている。

フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》や《デルフトの眺望》、レンブラントの《テュルプ博士の解剖学講義》など、17世紀オランダ絵画の名作を所蔵する美術館。小規模ながら質の高いコレクションが特徴で、「小さな宝石箱」と呼べる美術館。
※チケットの入手方法や展示作品などは下記の記事を参照ください。
オッテルローのおすすめ美術館

オッテルロー(Otterlo)は、オランダ東部、ヘルダーラント州に位置する人口わずか2,000人ほどの小さな村。オランダの田園文化がそのまま残され、観光の喧騒から離れ、アートと自然にひたれる。魂の深呼吸ができる街。
国立クレラー・ミュラー美術館

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ゴッホ作品の所蔵数が世界2位
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自然と一体化した25ヘクタールの彫刻庭園
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ゴッホ以外にも名画の宝庫
1938年に開館した国立クレラー・ミュラー美術館は、ゴッホの作品を世界で2番目に多く所蔵する美術館。《夜のカフェテラス》《アルルの跳ね橋》《糸杉と星の見える道》など、ゴッホ作品の中でも屈指の人気作をコレクション。

デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園内に位置し、自然と芸術が融合した空間。25ヘクタールに及ぶ彫刻庭園では、ロダンなどの作品が自然の中に点在している。

ゴッホだけでなく、ゴーギャン、ピカソ、ルドン、モンドリアン、スーラ、クラーナハなど、世界的な名画も多く展示されているので、ゴッホのファン以外も感動の報告。
※チケットの入手方法や展示作品などは下記の記事を参照ください。
オランダ美術館めぐりを楽しむプラン・ルート
オランダには魅力的な美術館が数多くあるが、時間や日程に限りがある旅行者にとって「どこに行くか」は悩みどころ。ここでは目的や好みに合わせた美術館巡りを提案する。自分の「好き」や「旅のテーマ」に合わせて、美術館選びのヒントにしてほしい。
【17世紀絵画を堪能】 アムステルダム国立美術館→ マウリッツハイス王立美術館


レンブラントやフェルメールの最高傑作に逢い、オランダ黄金時代の絵画を堪能したい場合は、この2館を外せない。

アムステルダム国立美術館(ライクス・ミュージアム)は、オランダ最大の国立美術館。レンブラントの《夜警》や、フェルメールの《牛乳を注ぐ女》はもちろん、フランス・ハルス、ピーテル・デ・ホーホ、ニコラス・マースなど、オランダを代表する世界的画家の作品を一挙に鑑賞できる。

翌日は、マウリッツハイス王立美術館(デン・ハーグ)へ。フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》《デルフトの眺望》の2大名画を所蔵し、レンブラントがブレークするきっかけになった《テュルプ博士の解剖学講義》や、最期の《自画像》がある。絵画の息づかいを間近で感じられる距離で観賞できるのも魅力。巨匠の作品が揃う“宝石箱”のような空間。

レンブラントを堪能する場合は、アムステルダムにある「レンブラントの家」もおすすめ。1639年からレンブラントが20年間住んでいた家を改築した5階建ての美術館。当時の家の様子などを再現している。
【ゴッホを深く味わう】ゴッホ美術館→クレラー・ミュラー美術館


ゴッホの芸術を真正面から味わいたいなら、ゴッホ美術館と国立クレラー・ミュラー美術館。この2館は絶対に外せない。

ゴッホ美術館(アムステルダム)は、世界最大のゴッホ作品を所蔵。《ひまわり》《花咲くアーモンドの木の枝》などが常設されており、ゴッホの生涯をたどる年表、弟テオとの書簡、画材やスケッチなどの展示も充実している。作品の並びも時系列順になっており、ゴッホの画風の変化や心の移ろいを肌で感じられる構成となっている。

翌日は、国立クレラー=ミュラー美術館(オッテルロー)へ。所蔵数では世界第2位、その密度と質はゴッホ美術館に匹敵する。《夜のカフェテラス》《種をつけた4本のひまわり》《糸杉と星の見える道》などが揃い、しかも混雑が少ない。静かにゆっくり観られるのが魅力。自然に囲まれた環境で、ゴッホの絵に寄り添うような時間を過ごせる。
【現代アートを楽しむ】アムステルダム市立美術館→ハーグ美術館

最新のアートシーンやモダンな空間に興味があるなら、アムステルダム市立美術館(ステデライク)がぴったり。モンドリアン、カンディンスキー、マレーヴィチなどの抽象絵画から、ジャコメッティやウォーホルまで、幅広いジャンルの現代アートが揃う。館の外観は白いバスタブをひっくり返したようなユニークなデザインで、建物自体もアート作品の一部となっている。

翌日は、ハーグ美術館に足を延ばしたい。未訪だが、1935年に建てられた近代美術館で、モンドリアンの代表作《ブロードウェイ・ブギウギ》や《赤・青・黄のコンポジション》などを展示。企画展も、現代アーティストの個展や国際的なコレクション展示も定期的に開催している。
美術館の予約ページリンク一覧
※クレラー・ミュラー美術館は、美術館のチケットに加え、デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園の入園券も事前予約も必須。
オランダの美術館は、ほとんどが事前予約が必要。人気で売り切れる場合もあるので、早めに入手したい。
絵画は素晴らしいものを一枚でも多く観ること。そうすることでしか開けられない扉がある。そのためには時には背伸びして素晴らしい美術館を訪れたほうがいい。
最高の絵画に出逢うことで扉の向こうに広がる未知の光景が見えてくる。しかし未知の光景に恍惚としながら歩くと、そこにまた扉が立ち塞がっている。絵画の魅力は、どこまでも続く謎めいた迷宮のような深淵さにある。
美術館選びに正解はない。ぜひ自分にとっての“運命の一館”を見つけてほしい。
オランダ無料美術館(パブリックアート)

オランダを訪れたら、美術館とともに巡って欲しいのが、街の至る所に点在するパブリックアート。アムステルダム中央駅は駅舎そのものがゴシック建築のアート。無料で観られるのに、素晴らしいアートを堪能できる。
聖ニコラス教会

特におすすめは教会巡り。アムステルダム中央駅の目の前にある「聖ニコラス教会」は1887年に建てられたネオ・ゴシック様式の教会。誰でも無料で入れる(教会内は撮影禁止)。

天井やステンドグラスも美しいが、何より壁画に注目してほしい。日本の美術館や画集などでは、とっつきにくい宗教画だが、蝋燭のやわらかな光、響くゴスペルの音に包まれていると、不思議とその絵が“自分の絵”に思えてくる。キリスト教に縁がなくても、自分のためのアートのように感じられる。絵画や彫刻よりも、「空間」が最大のアートであることを体感できる。

教会は観光客に大人気で、並んだり有料の教会もあるが、日本では味わえないアート体験なので、ぜひ訪れてほしい。

オランダの魅力は、美術館だけにとどまらない。街の景色そのものがアートであり、日常の風景に美が溶け込んでいる。旅の途中で見上げた建物の装飾や、道端の彫刻、橋のデザインひとつとっても、美意識が息づいている。
美術館のチケットがなくても、オランダでは一歩歩けば芸術と出会える。そんな“無料の美術館”を、ぜひ体感してみてほしい。
フェルメールの人生・代表作
ゴッホの人生・画業
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