アートの聖書

美術館巡りの日々を告白。美術より美術館のファン。

《花咲くアーモンドの木の枝》ゴッホが贈った世界、祝福は青空に咲いた

花咲くアーモンドの木の枝

  • 原題:Almond Blossom
  • 作者:ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
  • 制作:1890年2月
  • 寸法:73.3 cm x 92.4 cm
  • 技法:油絵、カンヴァス
  • 所蔵:ゴッホ美術館(オランダ)

ゴッホ、最高傑作。依頼者のためでも、自分自身のためでもない。愛する弟テオとその妻、そして顔も知らぬ生まれたばかりの命のために描かれた。世界で最も愛おしく、大切な絵画。世界最高の「お祝いメッセージカード」

《花咲くアーモンドの木の枝》

青い便箋に、白い花で「ようこそ」を書く。「世界は広い、でも怖くない。見上げれば、君のために咲く花がある」

桜と同じバラ科サクラ属のアーモンドは、南フランスで2月に白い花を咲かせる。1890年2月、ゴッホがサン=レミ=ド=プロヴァンスの精神病院で療養していたとき、パリに住んでいた弟テオに長男が生まれたのを祝して贈った。

ゴッホは1890年2月、療養先のサン=レミで弟テオに男児(ヴィンセント)誕生したことを聞き、母親に手紙を書いている。

1890年2月20日の手紙

愛する母へ

ずいぶん前にお手紙に返事を書こうと思っていたのですが、朝から晩まで絵を描いていたので、なかなか書けず、そのまま時間が過ぎてしまいました。私と同じように、あなたもヨーとテオのことを思っていらっしゃるのではないでしょうか。無事に産まれたという知らせを聞いた時、どれほど嬉しかったことでしょう。ウィル(ゴッホの妹)が残ってくれて本当に良かったです。

(生まれた子に)私は、父の名前を付けることを強く望んでいました。最近、父のことをずっと考えていたからです。私の名前(ヴィンセント)ではなく、父の名前( テオドルス)を付けるべきだったと思いますが、既に決まってしまったので、すぐに彼のための絵を描き始めました。寝室に飾るための、青い空を背景に白いアーモンドの花の大きな枝を描いた絵です。

ゴッホは色に祝福を灯した。生まれてきた子が最初に贈られるプレゼントは「愛」、次に「世界」。背景の青空が現世。可憐な白い花たちは産声という名の歌声。ゴツゴツした不器用な枝はゴッホの手。新しい生命を包み込み守る手。

ゴッホは甥っ子に「世界」をプレゼントした。「この世界で力強く、やさしく生きてゆくんだよ」というメッセージを込めて。

自身の人生を描いた絵

花咲くアーモンドの木の枝

《花咲くアーモンドの木の枝》は甥とその家族のためだけでなく、画家ゴッホ自身の象徴でもある。

ゴッホの絵はすぐには世界に受け入れられなかった。描きあげた直後は蕾であり、時間が絵を育て、死後に咲いて世界を彩った。花も絵も、やがては滅びる。永遠ではない。だから尊い。

初期の黒褐色の世界で土を描き、希望を育てた。やがて黄と青が芽吹き、最後にたどり着いたのが、緑。マラカイトグリーンとエメラルドグリーンが交差する色彩は、光の色であり、透明であり、未来の色。旅の終着点であり、同時に再出発の色でもある。

芸術とは「見て終わるもの」ではなく、「見てから始まるもの」。ゴッホは「光の画家」ではなく、「光の奥を描く画家」である。

円を描かずに、円を描く

ゴッホ、花咲くアーモンドの木の枝

実際に絵を観ると、白い花が揺れ、微風が吹いているように思えてくる。これほど命の光に満ちあふれた絵画は存在しない。花びらは地上に咲く星たち。

白い花が歌いながらサークルを描いている。ゴッホが求め続けた円環、すなわち永遠。この絵には、《ひまわり》にある円(太陽)がない。円を描かずに、円を描く。その到達点でもある。

ゴッホの集大成

《花咲くアーモンドの木の枝》ゴッホが贈った世界、祝福は青空に咲いた

ジャガイモを食べる人々》のゴツゴツした手も、《ひまわり》の生命力も、《星月夜》の糸杉の祈りも、《ローヌ川の星月夜》の瑞々しい空も、《夜のカフェテラス》の柔らかい光も、すべて《花咲くアーモンドの木の枝》に集約されていく。

《花咲くアーモンドの木の枝》は、風景画であり、静物画であり、肖像画である。あらゆる絵のジャンルが凝縮され、元気玉のようにパワーが集まっている。

ゴッホ美術館の展示

花咲くアーモンドの木の枝

アムステルダムのゴッホ美術館は、ゴッホが絵を贈った甥のヴィンセントが創設した美術館。《花咲くアーモンドの木の枝》は特別な一室に展示されている。ガイドツアーのあと、最も良かった絵を訊かれるが、《ひまわり》ではなく、ほとんど全員が《花咲くアーモンドの木の枝》と答える。それだけ、この絵には特別な力が宿っている。

ゴッホの大傑作は突発的に生まれるのものではない。同じモチーフで何枚もの絵を描き、その果てに大傑作が爆発する。《星月夜》も、《ひまわり》も、それ以前に同じテーマで何枚も描いている。

ゴッホの絵は「旅」であり、緻密な計算と入念な準備、たゆまない努力によって世界を魅了する。

《花咲くアーモンドの木の枝》も同様に、サン=レミの精神病院で過ごす前のアルルで描いている。

《グラスに入れた花咲くアーモンドの枝》

《グラスに入れた花咲くアーモンドの枝》1888年3月

  • 制作:1888年3月
  • 寸法:24.5 cm x 19.5 cm
  • 技法:油絵、カンヴァス
  • 所蔵:ゴッホ美術館(オランダ)

小さなカンヴァスの上に、春が息づいている。透明なグラスに射す光は、水をきらめかせ、花の命をやさしく支える。枝先にほころぶアーモンドの蕾は、桃色の吐息のように震える。

ゴッホがアルルに到着したとき、地面にはまだ雪が残っていた。寒さに負けず咲くアーモンドに感動し、花瓶にいけた。ゴッホの慈しみが溢れる一枚。背景の赤の線がアーモンドの力強さを強調している。

《花咲くアーモンドの木》

《花咲くアーモンドの木》1888年4月

  • 制作:1888年4月
  • 寸法:50 cm x 37.5 cm
  • 技法:油絵、カンヴァス
  • 所蔵:ゴッホ美術館(オランダ)

か弱い枝と花。しかし、ゴッホが描くとカンヴァスの中央から枝が伸び、画面真ん中で視界を割くように咲き誇る。モーゼが海を割ったよう。力強い前進に溢れている。

《 グラスに入れた花咲くアーモンドの枝と本》

《 グラスに注がれた花咲くアーモンドの枝と本》

  • 制作:1888年
  • 寸法:24.0 x 19.0 cm
  • 技法:油絵、カンヴァス
  • 所蔵:個人蔵

黄色とピンクの鮮やかさ。その気配を受けとめるかのように、背表紙の色もまた淡く染まる。それは本の色なのか、それとも花が映した夢なのか。黄色の卓上は陽だまりとなり、ピンクは静かに囁き、画面のすべてが春の気配へと調和していく。

姪へ、甥へ、そして未来へ

ゴッホ、《花咲くアーモンドの木の枝》

弟に第3子の姪が生まれたとき、《花咲くアーモンドの木の枝》のポスターをプレゼントした。弟はリビングにある長女の使っていたピアノの上に飾ってくれた。

偶然だが、テオの家も同じように、リビングのピアノの上に絵を飾っていたらしい。姪は生後3ヶ月で亡くなってしまった。一度しか抱っこできなかったが、そのときの温もりは、心の中に生きている。

ファン・ゴッホ美術館

そのあと生まれてきてくれた甥っ子は元気に育ち、1歳の誕生日にゴッホ美術館で《花咲くアーモンドの木の枝》を観ることができた。弟はポスターをプレゼントしたとき、こんな言葉を書いてくれた。

人生は、枝分かれした道を自分で選択して歩くもの。

そこには必ず根があり、幹があり、花や実がある。

全てのことには意味があり、全てのことに感謝できれば、きっと人生は彩られると思っています。色んな事が起こりますが、しっかりと生きましょう。

ゴッホが《花咲くアーモンドの木の枝》に込めた優しいメッセージを、弟は受け止めてくれた。自慢の弟を持ったことが、ゴッホと僕の共通点だ。

花咲くアーモンドの木の枝|人気のグッズ

やわらかな空色と白い花が軽やかな《花咲くアーモンドの木の枝》は、飾っても贈っても外さない“定番名画モチーフ”。

iPhoneケース

Smartphone with dual rear cameras on light blue surface. Clear case shows painting of white almond tree branches with pink white flowers against blue sky background. Device frame is black with silver edges.

iPhone16のスマホケースも《花咲くアーモンドの木の枝》にしている。

 

複製画

 

本格的な額装付きの複製画は、自宅に美術館の雰囲気を持ち込むことができる。色彩の美しさが長く楽しめるので、リビングや書斎に飾るのにぴったりだ。 《花咲くアーモンドの木の枝》を部屋に迎えて、毎日名画と暮らしてみたくなる。

ポスター/アートプリント

 

A3サイズのポスターやパネルは、気軽に楽しめるアートアイテム。額に入れて飾るだけで壁が一気に華やかになる。手軽に空間を彩りたい人にとって、これ以上ないインテリアのスパイスになる。

ジグソーパズル

 

1000ピースのマイクロピースジグソーは、時間をかけて完成させる楽しみがある。完成した後は飾って鑑賞できるのも魅力だ。作る楽しみと飾る喜びを同時に味わえる贅沢なアート体験になる。

雑貨

 

ゴッホ美術館とミッフィーのコラボぬいぐるみは、名画をモチーフにしたユニークな一品。インテリアとしてもギフトとしても喜ばれる。名画とキャラクターの愛らしい融合が、日常に小さな幸せを運んでくれる。

空前絶後のアート本、登場!

《花咲くアーモンドの木の枝》も登場!誰も気づかなかったゴッホの凄さをターザン山本が語る!美術館に行く前に読むと、絵の見方が180度変わります。『アートは燃えているか、』は、図版なしで名画をめぐる“言葉の美術館”です。《花咲くアーモンドの木の枝》も、ある企画の中に登場します。絵を観る天才が何を語るのか、その眼で確かめてください。
→ 書籍の詳細を見る [アートは燃えているか、]

《花咲くアーモンドの木の枝》が観られる美術館

ゴッホいちまいの絵

ゴッホに逢える日本の美術館

《ひまわり》

《ドービニーの庭》

《ばら》

《座る農婦》

過去のゴッホ展

オランダ黄金の美術館

原田マハの本

ゴッホの映画

日本の美術館ランキング

東京のおすすめ美術館