
- 原題:Portret van Giovanni Arnolfini en zijn vrouw
- 英題:The Arnolfini Portrait
- 作者:ヤン・ファン・エイク
- 制作:1434年
- 寸法:82.2× 60 cm
- 技法:油彩、板(オーク材)
- 所蔵:ロンドン・ナショナル・ギャラリー
「史上最高の絵画」を議論するとき、世間に聞けば《モナ・リザ》が挙がり、もう少し美術好きになるとレンブラント《夜警》、ベススケス《ラス・メニーナス》が立候補する。
忘れてはいけないのが、ヤン・ファン・エイクの《アルノルフィーニ夫妻像》。奇しくも先ほど候補に挙げた絵はすべて室内。モネの《印象、日の出》やムンクの《叫び》など、屋外ではなく室内に宇宙が宿る。
ヤン・ファン・エイクの一枚は、その超細密描写の超絶技巧が絶賛されるが、それだけでは史上最高の絵画にはなり得ない。この絵画は2013年に奈良から上京したとき、師匠に見方を教えてもらった。
「絵画とはこんなに凄いのか」と初めて気付かされた一枚。死ぬまでに、ロンドン・ナショナル・ギャラリーで観たい。
生と死を司どるアーティスト

絵のモデルはイタリア人商人ジョヴァンニ・ディ・ニコラ・アルノルフィーニと妻と言われているが、それはどうでもいい。
男は帽子を被り暗い。それは陰と死をあらわす。女は子どもを宿しているに見える。それは未来と生をあらわす。生と死が握手をしている。これは一組の夫婦の室内であり、同時にこの世の縮図でもある。
ど真ん中に鏡がある。そこにはヤン・ファン・エイクのサインがある。この鏡は太陽であり宇宙。依頼を受けた肖像画であっても、絵の創造神は画家なのだとヤン・ファン・エイクは高らかに宣言する。画家は宇宙であり、生も死も司っている。
ヤン・ファン・エイクは何気ない日常の一コマの中に絵画とは何かを詰め込んでいる。
油絵の始祖ヤン・ファン・エイク

ヤン・ファン・エイク(Jan van Eyck、1395年頃〜1441年7月9日)は、初期フランドル派のフランドル人画家。今の国名ではベルギー、もしくはオランダになるが、ベルギー人と言っていい。ベルギーはルーベンスや、《バベルの塔》で有名なブリューゲル、《王様の美術館》のルネ・マグリットも輩出している美術世界一の国。
ヤン・ファン・エイクは誕生日、生誕地もわからず謎に包まれているが、1400年代の宮廷画家とされ、ジョルジョ・ヴァザーリによると、ヤン・ファン・エイクが油絵具を発明したとされている。つまり油絵の始祖。
死ぬまでにヤン・ファン・エイクの絵画を実際に見たいと思っている。《アルノルフィーニ夫妻像》の超絶技巧については山田五郎のYouTubeが詳しい。
ヤン・ファン・エイクの他の作品たち
《受胎告知》

赤と青の鮮やかすぎる受胎告知。超絶技巧のために宗教画を借りたような絵。
ドレスデンの祭壇画

ヤン・ファン・エイク唯一の三連祭壇画。縦30センチしかない小さな枠の中に、これでもかと超細密描写を詰め込んでいる。
《ヘントの祭壇画》

兄のフーベルト・ファン・エイクとの共作。山田五郎が世界で最も好きな絵。
美術評論家が語る《アルノルフィーニ夫妻像》ヤン・ファン・エイク
画面全体に細密な描写と象徴が込められており、当時のブルゴーニュ宮廷文化や結婚の儀式、宗教的意味合いを伝えている。
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夫妻のポーズと衣装
- アルノルフィーニは黒いローブをまとい、手を上げるような仕草をしている。これは当時の結婚の誓いを象徴するとも言われている
- 妻のジャンナは豊かな緑色のドレスを着ており、これは「豊穣」と「妊娠」の象徴と考えられている
- 妊娠しているように見えるが、実際には当時のファッションとして、ドレスを前で膨らませて着るスタイルだった
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鏡に映る人物
- 背後の壁には凸面鏡が掛けられ、夫妻のほかに二人の人物が映っている。
- うち一人はおそらく画家本人であり、「私はここにいた」という署名とともに、結婚の証人としての存在を示唆している
- 「ヤン・ファン・エイクはここにいた(Johannes de eyck fuit hic)」とラテン語で書かれており、これは当時としては非常に珍しい自己署名である
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犬の存在
- 夫妻の足元にいる小型犬は「忠誠」と「愛」の象徴
- 結婚における忠実な関係を意味する
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燭台の火
- シャンデリアの蝋燭は夫側に1本だけ灯っている。「神の存在」や「亡くなった妻」を象徴しているとも解釈される
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手のポーズ
- 夫の右手は誓いのジェスチャーをしており、結婚の神聖さを示唆。
- 妻の手は夫の手にそっと添えられ、従順さや愛を表している。
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背景のオブジェ
- オレンジの実:裕福な家庭を象徴し、また「純潔」を表す
- ベッドの赤いカーテン:結婚生活や愛の情熱を示す
技術的革新
ヤン・ファン・エイクは、油彩技法を革新的に発展させた画家の一人であり、本作でもその卓越した技術が発揮されている。
油彩の透明感と光の表現
それまでのテンペラ画と比べ、油彩は層を重ねることでより豊かな色彩や光沢を表現できる技法だった。本作では、衣服の質感、鏡の反射、ガラスの光の透過、金属の輝きなどが精密に描かれている
遠近法の精密な利用
中央の鏡が空間を広げ、室内の奥行きを強調している。さらに、鏡に映る人物や天井の線などが透視図法を利用して巧みに配置されている
様々な説
結婚証明書説
一般的には「結婚の儀式」を描いた作品とされているが、正式な結婚の記録は見つかっていないため、実際には婚約や別の契約を表している可能性もある
追悼画説
一部の研究者は、この絵がアルノルフィーニの亡き妻を追悼するための作品ではないかと考えている。理由として、鏡の周りにキリスト受難の場面が描かれている点や、蝋燭が夫側だけに灯っている点などが挙げられる
商人としての権威の表現
豪華な衣服や高級家具は、当時の裕福な商人の成功を示しており、アルノルフィーニが財力と社会的地位を誇示するために描かせたという説もある
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