
アムステルダム国立美術館(Rijksmuseum Amsterdam)はオランダの首都にある年間220万人以上が訪れる美術館。
17世紀オランダ黄金時代の絵画を中心に、所蔵品は84万302点(100万点とも言われる)。そのうち約8,000点を展示している。国立西洋美術館の全所蔵数が6000。SOMPO美術館が630なので、2館合わせても、それ以上を展示しているモンスター・ミュージアム。全部を見るのに少なくとも3時間はかかる。
目玉はレンブラントの《夜警》、フェルメールの《牛乳を注ぐ女》が2大巨頭。
オランダの歴史と文化、芸術の精神を国内外に伝え続ける文化の中枢である。
アムステルダム国立美術館の歴史

アムステルダム国立美術館の開館は1800年。当初は国立美術ギャラリー(Nationale Konst-Gallerij)と呼ばれ、デン・ハーグに開館した。

1808年、ナポレオン1世の統治下の時代にアムステルダムに移転。

現在のネオ・ゴシック様式の建物が1885年に完成。リニューアルしたばかりの時期にゴッホも訪れた。設計はアムステルダム中央駅も手がけた建築家ピエール・カイペルス(だから外観が似ている)。

2013年には約10年に及ぶ大規模な改修工事を終え、より明るく開かれた空間として再オープン。中央の通路が市民の通行路として開放されている。
美術館への行き方は、アムステルダム市立美術館を参考にしてください。目の前なのでアクセスは同じです。
アムステルダム国立美術館のチケット

アムステルダム国立美術館は2022年以降、入館はオンラインでの事前購入が必要となっている。来館日と入場時間を指定し、2025年4月23日に訪れたときは1週間前に公式サイトから購入した。日本語に翻訳できるので困らない。

料金は25ユーロ(約4000円)で年中無休。入館は午前9時から午後5時まで。18歳以下は無料で入館できるが、予約は必要。
「フェルメール展」や「レンブラント展」など、特別展が開かれるときは別途入場券が必要。速攻で売り切れる可能性が高い。常設展だけの日も売り切れる場合があるらしいので、早めの予約がおすすめ。
アムステルダム国立美術館の旅行記

2025年4月23日、水曜日。オランダ滞在3日前。前日にマウリッツハイス美術館とレンブラントの家を巡ってヘトヘトに疲れた。外食する気力がなく、ホテルの近くのコンビニで買ったスナック菓子とチョコレートを食べ、21時前には寝落ちしていた。

この日は雨予報だったが、外に出ると快晴。オランダ滞在中、唯一、太陽が顔を見せてくれた朝。人口よりも自転車の数が多いオランダ。学生や通勤のサラリーマンが目的地へ向かうペダルを漕ぐ。

宿泊していたマリオット・ホテルから美術館までは徒歩5分。道すがら、街路樹には桜が咲いており、春の息吹が街に溶け込んでいる。

9時の入館予約をしていたが、8時50分に着くと、すでに長蛇の列。世界中からツアー客たちが集まり、列が伸びていく。平日でこの混雑。土日はチケットの入手が困難だろう。

9時の開館と同時に行列が動き出す。入場まではおよそ10分。スマホのスクリーンショットでチケットのバーコードを表示し、スタッフにスキャンしてもらって中へ。

館内に足を踏み入れると、開放感あふれる優雅な空間が広がる。威厳と品格をまといながらも、人を威圧しない。心地よい賑やかさが漂う。

館内は写真も動画も撮影自由(フラッシュは禁止)。この荘厳さと自由さが同居する空間こそ、オランダという国そのものを映している。
アムステルダム国立美術館の展示室
アジア館

アムステルダム国立美術館の展示室は80に及び、時代やテーマごとに明快に分かれている。絵画以外にも、彫刻、工芸品、版画、写真、アジア美術、そして歴史資料など、多岐にわたるコレクションを誇る。

レンブラントやフェルメールがどこにいるか分からず、アジア館に迷い込んだ。誰もいない。

オランダで日本の美術を観る不思議。味があるが、やはりオランダ美術を堪能したいと思い、足早に去る。
ルネサンスの展示室(First Floor)

アムステルダム国立美術館は単に絵画を見る場所ではなく、「歴史の中を歩く」空間。 中世・ルネサンスの展示室(First Floor)は宗教画、彫刻など、ゴシックからルネサンス期にかけての美術工芸品を展示。

ローマからオランダに帰国し、ルネサンスをオランダへ紹介した画家。その画力に度肝を抜かれる。
17世紀の展示室(Second Floor)

17世紀の展示室(Second Floor)は、オランダ黄金時代の絵画で埋め尽くされている。商人の台頭、海外貿易、生活の豊かさなどが絵画を通して見えてくる。

静物画、風俗画、風景画など、テーマも多彩で、当時の社会の雰囲気が鮮明に伝わってくる。

豪華な木製家具、精巧な時計、陶器、銀器、ドールハウス(当時の裕福な女性たちが所有していたもの)など、生活にまつわる美術工芸品を展示している。
19世紀展示室(Third Floor)

19世紀展示室(Third Floor)は、印象派や、その影響を受けたオランダ絵画などが展示されている。ゴッホやモネにも逢える。
ステンドグラス

2階のステンドグラスや祭壇画など宗教的要素が強く、静謐で荘厳な雰囲気。14〜16世紀の作品を中心に構成されており、ヨーロッパ美術の基礎を築いた時代の重みを感じさせる。
クイレイン・ライブラリー

アムステルダム国立美術館の名物が図書館(クイレイン・ライブラリー)。1885年の創設で、美術・歴史に関する資料を収集し続けるオランダ最大の美術専門図書館。吹き抜けの高い書架が美しく、本の大聖堂のような空間。一般来館者も利用できる。
名誉の間(Gallery of Honour)

17世紀のオランダ黄金時代の名画が並ぶ「名誉の間(Gallery of Honour)」は来館者が最も集まる場所。天井は高く、自然光が差し込む構造で、聖堂のような神聖な空気が漂う。

17世紀のオランダ黄金時代の名画が並び、レンブラントの《夜警》が奥に鎮座する。

その周囲にはレンブラントの他の作品。

フランス・ハルス、ヤン・ステーンなど、オランダの誇り、バロックの傑作が並ぶ。

そして、フェルメールが名誉の間を賑わせる。シンプルな展示が素晴らしい。
ミュージアムショップとカフェ

ミュージアムショップは、本館1階にあり、フェルメールやレンブラントなどの名画をモチーフにしたグッズや画集、アート文具、雑貨が豊富に揃う。

併設のカフェ「RIJKS Café」は、明るく洗練された空間で、地元食材を使った軽食やスイーツ、コーヒーを楽しめる。展示鑑賞の合間に一息つくのに最適なスポットだが、激混みで今回は遠慮した。
アムステルダム国立美術館の絵画作品
レンブラント
《夜警》

世界最高の絵画。本来は修復作業は非公開だが、横幅4メートルを超える巨大絵画なので時間がかかる。オランダ人のきっぷの良さそのままに、修復作業中も公開している。
画集で観たときは、この絵の凄さが分からなかったが、実物と対峙すると恍惚とさせられる。ひとりひとりの表情が生き生きし、本当に生きているように思えてくる。
《ユダヤの花嫁》

《夜警》よりも感動。震撼した。新歓した。アムステルダム国立美術館で最高の絵の一枚。ゴッホが「2週間この絵の前で座っていられたら、人生の10年間をあげても惜しくない」と言った意味がわかる。
《布地商組合の見本調査官たち》

56歳の1662年の作品。レンブラント最後の注文による集団肖像画。最初の印象は「平凡」「丁寧すぎる」
だったが、やはりレンブラントは一人一人の人格を映し出す奇才。《夜警》や《テュルプ博士の解剖学講義》のような、ファースト・インパクトで圧倒する絵ではないからこそ、レンブラントの集団肖像画の何たるかが詰まっている。
《旗手》

1636年、《旗手》というタイトルの自画像。スターを手に入れた直後の無敵のスーパーマリオっぽい。マリカーのドリフトも上手そう。2022年、フランスのロスチャイルド家から1億7500万ユーロ(約250億円)で買い戻したもの。オランダ政府の補助金や寄付を募った。コスプレ×キアロスクーロのレンブラントらしさ爆発の自画像。
日本なら防弾ガラスでガッチガチに幽閉して絶対に撮影NG。それを裸でアッサリと展示している懐の広さがすごい。
《修道士としてのティトゥス》

顔だけが浮かび上がり、その表情は疲れている。人間の肖像画というより、墓標にすら見える。若き青年に哀しみを背負わせるレンブラント。子どもを子ども扱いしない。
映画『レンブラントは誰の手に』によると、モデルを務めることに飽きて父親のレンブラントに文句を言った。目線は息子のティトゥス自身が決めたとか。
レンブラントは「光と影の魔術師」と呼ばれるが、そうは思わない。キアロスクーロ(明暗法)においてはラトゥールが最高峰であり、ルーベンスのほうが上。
レンブラントは多くの喪失を抱えていた。財産も名誉も、妻も子どもも、大きなものを失った。喪失を抱えながらも、亡くなる年まで絵を描き続けた。喪失を抱えていたからこそ、絵に喪失よりも大きなものを宿すことができた。才能を育てる「不幸」という肥料があったからこそ、レンブラントの才能は花を咲かせた。
絵画に比べてオランダ文学は世界に知られていない。オランダ最大の文学者はレンブラントだったのだ。
フェルメール
《牛乳を注ぐ女》

何でもない女性の何でもない日常が、あの《夜警》と並び世界中の人々を魅了する。絵画のパワーを、これほど物語る絵は他にない。フェルメールの中でも別格。
《小路》

《牛乳を注ぐ女》や《窓辺で手紙を読む女》と並ぶ初期のマスターピース。フェルメールという名の、路地裏の聖者。フェルメールは「描きたいこと描いた」画家ではなく、ゴッホと同じく「描きたくないことを描かなかった」画家なのだ。
《青衣の女》

衣服にフェルメールブルー(ウルトラマリン)を大胆に使った一枚。1885年にアムステルダム国立美術館が購入した最初のフェルメール作品である。現在のネオ・ゴシック様式の建物が完成した年で、その年に同館を訪れたゴッホが、《青衣の女》を観て、テオへの手紙に「とても美しい身重のオランダ婦人」と書いている。
《恋文》

1669〜1671年頃。晩年のフェルメールは画力の低下が顕著になる。だが、それがフェルメール。画家はAIではない。衰えるからこそ人間であり、その人間味が、フェルメールの傑作を生み出したのだ。そして、この絵はエンタメ的に見れば、かなり面白い。フェルメールは、恋文が部屋の空気まで赤面させる瞬間を描いている。
オランダ黄金時代の画家たち
ピーテル・デ・ホーホ


ユディト・レイステル


17世紀オランダ黄金時代の数少ない女性画家。
ピーター・ヤンス・サーンレダム


教会の内部を描いたオランダ黄金時代の画家。

デルフトで生まれたオランダの静物画家。プロのカメラマンに「物撮りが最も難しい」と聞いたことがあるが、豪華な食事を並べた静物画「banketje」の様式を確立した。
ヘンドリック・アーフェルカンプ

ヘンドリック・アーフェルカンプはアムステルダム生まれの画家。耳が聞こえなかったという。17世紀オランダ画派最初の風景画家の一人で、冬のオランダの絵を得意とした。
ヘリット・ベルクヘイデ

フェルメールの《デルフトの眺望》を思わせる空。ザ・都市景観画。オランダ黄金時代の画家は一芸に秀でている。
18世紀、19世紀の絵画
ゴッホ

アムステルダム国立美術館はオランダ黄金時代の絵画を堪能する場所と言えるが、19世紀展示室(Third Floor)には、ゴッホやモネ、ゴヤなどの有名画家の作品もある。並べ方は割と雑。

国を飛び出す前のオランダ時代に描いた一枚。シンゲル運河、旧ルーテル教会。今のアムステルダムの風景と違い、かなり寂れている。友人の到着を待つ間に、急いで仕上げた作品。テオへの手紙によると、1時間ほどで描き上げたという。
この絵は2019年、上野の森美術館で開かれた『ゴッホ展』というシンプルな企画展で来日した。会場で観ているが、《糸杉》のほかの絵を覚えていない。

パリ時代に描いた自画像。力強さと、絵のうまさを感じる。写実の練習をしたと思われる。斜めに走る筆致が渦を巻くように画家の存在を強調する。灰色の帽子は冷たい静けさを漂わせ、緑を帯びた瞳は観る者を貫く。荒々しくも繊細な筆触は生命の震えを伝え、装飾を排した画面には純粋な精神が刻まれる。
孤独と誇り、静けさと激情を同時に宿すこの肖像は、ゴッホの芸術家としての覚悟を示す宣言である。

初めて見た。と思ったら、これも2019年に上野に来日していた。英題は「Riverbank with trees」。パリ時代に描いたセーヌ川岸のクローズアップ。木を真ん中に置いているところが習作っぽい。

これも2019年に上野に来日している。麦畑の奥にアルピーニュ山脈が広がる一枚。ゴッホは黄と黄金を使い分ける。麦畑を使うとき、ゴッホの黄は黄金になる。ゴッホの歓びが伝わる。ゴッホにとって麦畑は太陽なのだ。やがて最晩年の大傑作《黒い鳥のいる麦畑》へとつながる。
モネ

《モナコ近くのコルニッシュ》1884年
ゴッホの近くにはモネ。すごい絵画が並ぶ中で、「あ、これ好きだな」と思ったらモネだったりする。モネの絵画はポストカードにすると平凡になるが、絵画で見ると癒される。それがモネの力。
クロード・ロラン

大好きな画家クロード・ロラン。初めて生で絵を観れた。日本で個展をやってほしい。モネの《印象、日の出》へとつながる朝日を浴びる港。郷愁ではない懐かしさがある。
フランシスコ・デ・ゴヤ

《ドン・ラモン・サトゥエの肖像》1823年
国立西洋美術館で観たときも同じだったが、ゴヤの肖像画は好きではないが、パッとみてゴヤが描いたとわかる。この独特のタッチ、質感はなんなのか。代表作をこの眼で観たい画家のひとり。
19世紀のオランダ絵画
アンソニー・オーバーマン

ここまで圧倒的な画力を見せつけられると、絵の余計なメッセージは探らず、ただ美しさに感動すればいい。それこそが美術。



インプットが追いつかないほど名画が並ぶ。

企画展では、アメリカの写真展を実施しており、常設展だけでもお腹いっぱいなのに、お代わりが次々と来るサービス精神。

中央アトリウム「アトリウムホール」の天井を見上げてゴッホ美術館へ向かった。洗練と、重厚さ。直線が織りなす構造美と柔らかな自然光。光と影の檻、奥行きと解放。これこそがアムステルダム国立美術館であり、オランダという国なのだ。
オランダに行って自分が変わったと実感するのは、レンブラントの凄さがわかるようになったこと。ゴッホやフェルメールとの出逢いが最も嬉しかったが、最も変化をくれたのはレンブラントだった。
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