アートの聖書

美術館巡りの日々を告白。美術より美術館のファン。

『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝

『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝

箱根のポーラ美術館が初となるゴッホの企画展を開催。名は『ゴッホ・インパクト―生成する情熱』。会期は2025年5月31日~11月30日(会期中無休)。半年間に及ぶ長距離走。

『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝

ゴッホ自身の作品は少ない。7月の大阪、9月の神戸のように、オランダの美術館の全面協力のもと、傑作が来日するわけではない。ゴッホに関わった画家、ゴッホに影響を受けた画家たちの作品を通して、ゴッホの価値を再認識する。

第1会場

『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝

凄いのが、ゴッホの油絵をすべて第1会場に展示。もったいぶらずに、ファースト・インパクトで勝負する。

壁を基本的には白、もしくは淡い緑にしている展示も素晴らしい。ゴッホの絵は力強く、ゴツゴツしているので、壁を白くすることで表現を引き立て、すっきりと美しく際立つ。

『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝

入り口すぐ、最初の展示がセザンヌとゴーギャン。意表をつかれる。

ポール・セザンヌ《プロヴァンスの風景》

ポール・セザンヌ《プロヴァンスの風景》1879-1882年

ポール・セザンヌ《プロヴァンスの風景》1879-1882年

セザンヌはポーラ美術館が所蔵。ゴーギャンはSOMPO美術館から貸出。

ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》

ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》1888年

ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》1888年、SOMPO美術館

この1年半、SOMPO美術館のすべての企画展に足を運んでも逢えなかった絵。まさか箱根で対面するとは。ゴーギャンの赤は、炎でも情熱でも郷愁でもなく「血」の匂いがする。カンヴァスを血で染める強さがある。

ゴッホ《座る農婦》

ゴッホ《座る農婦》1884-85年

ゴッホ《座る農婦》1884-85年、諸橋近代美術館

ゴッホのオランダ時代の絵画は他館から借りたもの。和泉市久保惣記念美術館の絵は撮影禁止だが、諸橋近代美術館だけOK(昨年、訪れたとき禁止だったのにwhy?)。

ゴッホの力強さはなく、やさしい。背景や服、瞳のブラックと対照にフードの白が農夫を包む光のようである。のちの《ジャガイモを食べる人々》へとつながる作品。

歌川広重《富士三十六景》

歌川広重《富士三十六景》

歌川広重《富士三十六景》

ゴッホが敬愛していた、歌川広重の浮世絵6枚を展示。

歌川広重《富士三十六景》武蔵小金井

歌川広重《富士三十六景》武蔵小金井、1858年

広重の構図は西洋絵画でも類を見ない。ゴッホと対談して欲しかった。

林忠正編『パリ・イリュストレ』誌「特集:日本」1886年5月号

林忠正編『パリ・イリュストレ』誌「特集:日本」1886年5月号

ゴッホが模写した、芙蓉瑛斎英泉の浮世絵が表紙の雑誌。ポーラ美術館の所蔵。ゴッホが模写したものは、オランダのゴッホ美術館にある。

リシャルト・ロラント・ホルスト 『ファン・ゴッホ展』カタログ表紙

リシャルト・ロラント・ホルスト 『ファン・ゴッホ展』(1892年)カタログ表紙

リシャルト・ロラント・ホルスト 『ファン・ゴッホ展』(1892年)カタログ表紙

SOMPO美術館が所蔵する美術展のカタログ。ゴッホが亡くなってから2年後、オランダのアムステルダムで開かれたもの。弟テオの妻ヨハンナが監修した。キリストの降架のように、ひまわりがうなだれる。

ゴッホ《ヴィゲラ運河にかかるグレーズ橋》

ゴッホ《ヴィゲラ運河にかかるグレーズ橋》1888年

ゴッホ《ヴィゲラ運河にかかるグレーズ橋》1888年

アルルの跳ね橋と同じく、地面の黄金がまぶしい。黄色と青をメインに、赤や緑の補色を上手く使っている。遠くの雲が低いのが好きだ。ゴッホの子どものような喜びが伝わる。

ゴッホ《草むら》

ゴッホ《草むら》1889年4月

ゴッホ《草むら》1889年4月

サン=レミのサン=ポール精神療養院で描いた一枚。シンプルなものにゴッホは宿る。厚塗りというより、流れるように描いている。見下ろしている構図だが、ゴッホの意識は見上げている。こういう絵をステキに描ける画家が好きだ。

ゴッホ《アザミの花》

ゴッホ《アザミの花》1890年6月

ゴッホ《アザミの花》1890年6月

ゴッホが亡くなる1ヶ月前に描いた、最期の花の絵の一枚。植物というより羽のある昆虫のよう。絵の具が生きているように躍動している。

『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝

ゴッホ自身の作品は、これで終わり。あとはゴッホ周辺の画家や、ゴッホに影響を受けた画家の作品で繋いでいく。ビッグネームばかり。そして、ゴッホに負けないほどのクオリティ。

最も凄かったモーリス・ド・ヴラマンクの絵画は撮影禁止なので、ポーラ美術館に足を運んで欲しい。

ポール・ゴーギャン《白いテーブルクロス》

ポール・ゴーギャン《白いテーブルクロス》1886年

ポール・ゴーギャン《白いテーブルクロス》1886年

白いテーブルクロスが波、海に見えるゴーギャンの傑作。

ポール・セザンヌ《ラム酒の瓶のある静物》

ポール・セザンヌ《ラム酒の瓶のある静物》1890年頃

ポール・セザンヌ《ラム酒の瓶のある静物》1890年頃

背景の壁の温もりがあるから、無表情な静物が愛おしく思えてくる。ラム酒だけが立派な塔だが、ひとりぼっち。孤独感が素晴らしい。

ポール・セザンヌ《砂糖壺、梨とテーブルクロス》

ポール・セザンヌ《砂糖壺、梨とテーブルクロス》1893-1894年

ポール・セザンヌ《砂糖壺、梨とテーブルクロス》1893-1894年

セザンヌの静物画の中でも特に凄い一枚。自分が手に持ったようにズシリと感覚が伝わる。

アンリ・マティス《オリーブの木のある散歩道》

アンリ・マティス《オリーブの木のある散歩道》1905年

アンリ・マティス《オリーブの木のある散歩道》1905年

ゴッホも繰り返し描いたオリーブの樹。真ん中の道が、バージンロードのように収穫を祝福している。

アルベール・マルケ《冬の太陽、パリ》

アルベール・マルケ《冬の太陽、パリ》1904年

アルベール・マルケ《冬の太陽、パリ》1904年

エドヴァルド・ムンク《犬のいる自画像》1925-1926年頃

エドヴァルド・ムンク《犬のいる自画像》1925-1926年頃

ジョルジュ・ブラック《レスタックの家》1907年

ジョルジュ・ブラック《レスタックの家》1907年

カミーユ・ピサロ《エヌリー街道の眺め》1879年

カミーユ・ピサロ《エヌリー街道の眺め》1879年

日本人画家によるゴッホの影響

『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝

ゴッホに影響を受けた日本人画家たちの作品群。日本各地の美術館から借りているものが多いが、ポーラ美術館の所蔵も見事。海外の画家だけでなく、日本人画家の傑作も収集しているところがポーラ美術館の凄さ。

『白樺』、ポーラ美術館の所蔵
『白樺』、ポーラ美術館の所蔵
『白樺』、ポーラ美術館の所蔵

1921年(大正10)にゴッホを特集した雑誌『白樺』。日本はドイツと並び、早くからゴッホに注目した外国のひとつ。ゴッホの傑作が日本に多いのも、単に金持ち国だからではない。

ゴッホ《医師ガシェの肖像(パイプを持つ男)》

ゴッホ《医師ガシェの肖像(パイプを持つ男)》1890年、横浜美術館

ゴッホ《医師ガシェの肖像(パイプを持つ男)》1890年、横浜美術館

ゴッホが描いたエッチング。ゴッホの絵画が世界中に買い漁られる前、多くの絵はがシェ医師の自宅にあった。

『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝
『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝

驚くべきことに100人を超える日本人が「ゴッホの絵を観るため」に、ガシェ医師のもとを訪れたという。

日本人画家たち

岸田劉生《自画像》1912年(明治45,東京都現代美術館

岸田劉生《自画像》1912年(明治45),東京都現代美術館

川上涼花《鉄路》1912年(明治45),東京国立近代美術館

川上涼花《鉄路》1912年(明治45),東京国立近代美術館

木村荘八《虎の門付近》1912年(明治45),東京国立近代美術館

木村荘八《虎の門付近》1912年(明治45),東京国立近代美術館

前田寛治《ゴッホの墓》1923年(大正12,個人蔵

前田寛治《ゴッホの墓》1923年(大正12),個人蔵

萬鐵五郎《太陽の麦畑》1913年(大正2),東京国立近代美術館

萬鐵五郎《太陽の麦畑》1913年(大正2),東京国立近代美術館

萬鐵五郎は日本人画家の中で、最もゴッホの筆圧に近い。

里見勝蔵《ポントワーズの雪景》1924年(大正13),ポーラ美術館

里見勝蔵《ポントワーズの雪景》1924年(大正13),ポーラ美術館

ヴラマンクの絵は撮影禁止だが、それに迫る。少しヴラマンクより柔らかいが、暗闇の空に白の対比が静謐。

佐伯祐三《オーヴェールの教会》

佐伯祐三《オーヴェールの教会》1924年(大正13),鳥取県立美術館

佐伯祐三《オーヴェールの教会》1924年(大正13),鳥取県立美術館

空が明るいオーヴェルの教会。佐伯祐三は、建物の鼓動を捉える。壁に人々の暮らしが染みついている。日本のゴッホというより、日本のヴラマンク。

第2会場

『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝

さらに、地下に降りて第二会場。ちょっと変わった角度から、ゴッホに関する作品を展示。

『ゴッホ・インパクト』ポーラ美術館の箱根アート駅伝

ゴッホで最も有名な絵である《ひまわり》に関する絵画たち。

ゴッホ《ひまわり》

陶板による再現,2023年,大塚オーミ陶業株式会社

ゴッホ《ひまわり》、陶板による再現,2023年,大塚オーミ陶業株式会社

焼失した芦屋にあった《ひまわり》を陶板で再現。徳島の大塚国際美術館と同じ手法。元の絵を実際に観ていないが、ゴッホの迫力は感じなかった。SOMPO美術館やゴッホ美術館の《ひまわり》の陶板も観てみたい。

中村彝《向日葵》

中村彝《向日葵》1923年(大正12),アーティゾン美術館

中村彝《向日葵》1923年(大正12),アーティゾン美術館

37歳で亡くなった中村彝(つね)の向日葵。花のパワーがすごい。他の作品も観てみたい。

ゴッホの贋作《アルピーユの道》大原美術館

ゴッホの贋作《アルピーユの道》大原美術館

ドイツのレオンハルト・ヴァッカーによる贋作といわれる作品。大原美術館が1935年に購入した。山田五郎さんのYouTubeでも「オットー・ヴァッカー事件」について詳しく解説している。贋作と知って観たが、パワー不足。もし、ゴッホの真作としても失敗作に入る。

福田美蘭《冬-供花》

福田美蘭《冬-供花》2012年(平成24),豊田市美術館

福田美蘭《冬-供花》2012年(平成24),豊田市美術館

ゴッホに近い絵を描いた福田美蘭の花の絵画。

桑久保徹《フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのスタジオ》

桑久保徹《フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのスタジオ》2015年、個人蔵

桑久保徹《フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのスタジオ》2015年、個人蔵

企画展のフィナーレ。ゴッホのモチーフやタッチを真似るよりも、ゴッホ愛を感じる。こういう絵を見たい。作者に、なぜゴッホの最高傑作《花咲くアーモンドの木の枝》がないのか訊いてみたい。

桑久保徹《フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのスタジオ》2015年、個人蔵

桑久保徹《フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのスタジオ》2015年、個人蔵

桑久保徹《フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのスタジオ》2015年、個人蔵

桑久保徹《フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのスタジオ》2015年、個人蔵

『ゴッホ・インパクト』総括

『ゴッホ・インパクト』総括

ゴッホは世界で最も人気のある画家。世界中から貸出のオファーが来るため、企画展を開催するのが特に難しい画家。

今回の『ゴッホ・インパクト』は、各地の美術館を巡回するわけではなく、ポーラ美術館のみの開催。箱根でしか味わえないゴッホの魅力。来て良かったし、観覧者から「3000円以上の価値があったね」という声も聞こえてきた。外国の観光客が多い美術館なので、満足度を聞いてみたい。

オランダやフランスなど海外の美術館に頼らず、この企画に踏み切った異色さ、そして意気込みに拍手を贈りたい。ポーラ美術館のコレクションの質の高さが、あらためてよくわかった。

観客に最も良かった絵を訊けば、ゴッホ以外の作品が挙がるだろう。主役に逢いに来て、違う名画に魅了される。それが現場へ足を運ぶ醍醐味。2016年の『ルノワール展』で初めてゴッホに出逢い(アニエールのレストラン・ド・ラ・シレーヌ)、人生を変えるディープ・インパクトを受けた自分のように。

今度はポーラ美術館の『ゴッホ・インパクト』が、ゴッホ以外の名画との邂逅になる。ゴッホを起点に、美が走る。ゴッホ以外の画家で襷を繋いでいく。見事な箱根アート駅伝だった。

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ゴッホの炎の人生・画業を完全解説

ゴッホの有名絵画・代表作を完全網羅

2025年のゴッホ展

ゴッホに逢える日本の美術館

《ひまわり》

《ドービニーの庭》

《ばら》

《座る農婦》

過去のゴッホ展

オランダ黄金の美術館

原田マハの本

ゴッホの映画

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