
箱根のポーラ美術館が初となるゴッホの企画展を開催。名は『ゴッホ・インパクト―生成する情熱』。会期は2025年5月31日~11月30日(会期中無休)。半年間に及ぶ長距離走。

ゴッホ自身の作品は少ない。7月の大阪、9月の神戸のように、オランダの美術館の全面協力のもと、傑作が来日するわけではない。ゴッホに関わった画家、ゴッホに影響を受けた画家たちの作品を通して、ゴッホの価値を再認識する。
第1会場

凄いのが、ゴッホの油絵をすべて第1会場に展示。もったいぶらずに、ファースト・インパクトで勝負する。
壁を基本的には白、もしくは淡い緑にしている展示も素晴らしい。ゴッホの絵は力強く、ゴツゴツしているので、壁を白くすることで表現を引き立て、すっきりと美しく際立つ。

入り口すぐ、最初の展示がセザンヌとゴーギャン。意表をつかれる。
ポール・セザンヌ《プロヴァンスの風景》

セザンヌはポーラ美術館が所蔵。ゴーギャンはSOMPO美術館から貸出。
ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》

この1年半、SOMPO美術館のすべての企画展に足を運んでも逢えなかった絵。まさか箱根で対面するとは。ゴーギャンの赤は、炎でも情熱でも郷愁でもなく「血」の匂いがする。カンヴァスを血で染める強さがある。
ゴッホ《座る農婦》

ゴッホのオランダ時代の絵画は他館から借りたもの。和泉市久保惣記念美術館の絵は撮影禁止だが、諸橋近代美術館だけOK(昨年、訪れたとき禁止だったのにwhy?)。
ゴッホの力強さはなく、やさしい。背景や服、瞳のブラックと対照にフードの白が農夫を包む光のようである。のちの《ジャガイモを食べる人々》へとつながる作品。
歌川広重《富士三十六景》

ゴッホが敬愛していた、歌川広重の浮世絵6枚を展示。

広重の構図は西洋絵画でも類を見ない。ゴッホと対談して欲しかった。

ゴッホが模写した、芙蓉瑛斎英泉の浮世絵が表紙の雑誌。ポーラ美術館の所蔵。ゴッホが模写したものは、オランダのゴッホ美術館にある。
リシャルト・ロラント・ホルスト 『ファン・ゴッホ展』カタログ表紙

SOMPO美術館が所蔵する美術展のカタログ。ゴッホが亡くなってから2年後、オランダのアムステルダムで開かれたもの。弟テオの妻ヨハンナが監修した。キリストの降架のように、ひまわりがうなだれる。
ゴッホ《ヴィゲラ運河にかかるグレーズ橋》

アルルの跳ね橋と同じく、地面の黄金がまぶしい。黄色と青をメインに、赤や緑の補色を上手く使っている。遠くの雲が低いのが好きだ。ゴッホの子どものような喜びが伝わる。
ゴッホ《草むら》

サン=レミのサン=ポール精神療養院で描いた一枚。シンプルなものにゴッホは宿る。厚塗りというより、流れるように描いている。見下ろしている構図だが、ゴッホの意識は見上げている。こういう絵をステキに描ける画家が好きだ。
ゴッホ《アザミの花》

ゴッホが亡くなる1ヶ月前に描いた、最期の花の絵の一枚。植物というより羽のある昆虫のよう。絵の具が生きているように躍動している。

ゴッホ自身の作品は、これで終わり。あとはゴッホ周辺の画家や、ゴッホに影響を受けた画家の作品で繋いでいく。ビッグネームばかり。そして、ゴッホに負けないほどのクオリティ。
最も凄かったモーリス・ド・ヴラマンクの絵画は撮影禁止なので、ポーラ美術館に足を運んで欲しい。
ポール・ゴーギャン《白いテーブルクロス》

白いテーブルクロスが波、海に見えるゴーギャンの傑作。
ポール・セザンヌ《ラム酒の瓶のある静物》

背景の壁の温もりがあるから、無表情な静物が愛おしく思えてくる。ラム酒だけが立派な塔だが、ひとりぼっち。孤独感が素晴らしい。
ポール・セザンヌ《砂糖壺、梨とテーブルクロス》

セザンヌの静物画の中でも特に凄い一枚。自分が手に持ったようにズシリと感覚が伝わる。
アンリ・マティス《オリーブの木のある散歩道》

ゴッホも繰り返し描いたオリーブの樹。真ん中の道が、バージンロードのように収穫を祝福している。
アルベール・マルケ《冬の太陽、パリ》

アルベール・マルケ《冬の太陽、パリ》1904年



日本人画家によるゴッホの影響

ゴッホに影響を受けた日本人画家たちの作品群。日本各地の美術館から借りているものが多いが、ポーラ美術館の所蔵も見事。海外の画家だけでなく、日本人画家の傑作も収集しているところがポーラ美術館の凄さ。


1921年(大正10)にゴッホを特集した雑誌『白樺』。日本はドイツと並び、早くからゴッホに注目した外国のひとつ。ゴッホの傑作が日本に多いのも、単に金持ち国だからではない。
ゴッホ《医師ガシェの肖像(パイプを持つ男)》

ゴッホが描いたエッチング。ゴッホの絵画が世界中に買い漁られる前、多くの絵はがシェ医師の自宅にあった。


驚くべきことに100人を超える日本人が「ゴッホの絵を観るため」に、ガシェ医師のもとを訪れたという。
日本人画家たち





萬鐵五郎は日本人画家の中で、最もゴッホの筆圧に近い。

ヴラマンクの絵は撮影禁止だが、それに迫る。少しヴラマンクより柔らかいが、暗闇の空に白の対比が静謐。
佐伯祐三《オーヴェールの教会》

空が明るいオーヴェルの教会。佐伯祐三は、建物の鼓動を捉える。壁に人々の暮らしが染みついている。日本のゴッホというより、日本のヴラマンク。
第2会場

さらに、地下に降りて第二会場。ちょっと変わった角度から、ゴッホに関する作品を展示。

ゴッホで最も有名な絵である《ひまわり》に関する絵画たち。
ゴッホ《ひまわり》

焼失した芦屋にあった《ひまわり》を陶板で再現。徳島の大塚国際美術館と同じ手法。元の絵を実際に観ていないが、ゴッホの迫力は感じなかった。SOMPO美術館やゴッホ美術館の《ひまわり》の陶板も観てみたい。
中村彝《向日葵》

37歳で亡くなった中村彝(つね)の向日葵。花のパワーがすごい。他の作品も観てみたい。

ドイツのレオンハルト・ヴァッカーによる贋作といわれる作品。大原美術館が1935年に購入した。山田五郎さんのYouTubeでも「オットー・ヴァッカー事件」について詳しく解説している。贋作と知って観たが、パワー不足。もし、ゴッホの真作としても失敗作に入る。
福田美蘭《冬-供花》

ゴッホに近い絵を描いた福田美蘭の花の絵画。
桑久保徹《フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのスタジオ》

企画展のフィナーレ。ゴッホのモチーフやタッチを真似るよりも、ゴッホ愛を感じる。こういう絵を見たい。作者に、なぜゴッホの最高傑作《花咲くアーモンドの木の枝》がないのか訊いてみたい。




『ゴッホ・インパクト』総括

ゴッホは世界で最も人気のある画家。世界中から貸出のオファーが来るため、企画展を開催するのが特に難しい画家。
今回の『ゴッホ・インパクト』は、各地の美術館を巡回するわけではなく、ポーラ美術館のみの開催。箱根でしか味わえないゴッホの魅力。来て良かったし、観覧者から「3000円以上の価値があったね」という声も聞こえてきた。外国の観光客が多い美術館なので、満足度を聞いてみたい。
オランダやフランスなど海外の美術館に頼らず、この企画に踏み切った異色さ、そして意気込みに拍手を贈りたい。ポーラ美術館のコレクションの質の高さが、あらためてよくわかった。
観客に最も良かった絵を訊けば、ゴッホ以外の作品が挙がるだろう。主役に逢いに来て、違う名画に魅了される。それが現場へ足を運ぶ醍醐味。2016年の『ルノワール展』で初めてゴッホに出逢い(アニエールのレストラン・ド・ラ・シレーヌ)、人生を変えるディープ・インパクトを受けた自分のように。
今度はポーラ美術館の『ゴッホ・インパクト』が、ゴッホ以外の名画との邂逅になる。ゴッホを起点に、美が走る。ゴッホ以外の画家で襷を繋いでいく。見事な箱根アート駅伝だった。
空前絶後のアート本、登場!

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ゴッホの炎の人生・画業を完全解説
ゴッホの有名絵画・代表作を完全網羅
2025年のゴッホ展
ゴッホに逢える日本の美術館
《ひまわり》
《ドービニーの庭》
《ばら》
《座る農婦》
過去のゴッホ展
オランダ黄金の美術館
原田マハの本
ゴッホの映画
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