アートの聖書

美術館巡りの日々を告白。美術より美術館のファン。

《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》ゴッホが歌う子守唄

ゴッホ《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》

  • 原題:Portrait of Madame Roulin(英語)
  • 副題:La Berceuse(子守唄)
  • 作者:ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
  • 制作:1889年2月(不確定)
  • 寸法:91 cm × 71.5 cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:ゴッホ美術館(オランダ)

アルル時代、ゴッホが交流を持った郵便配達人ジョゼフ・ルーランの妻、オーギュスティーヌ・ルーラン夫人を描いた肖像画。顔のアップや赤ん坊を抱えるバージョンなど何枚もゴッホは夫人を描いた。

この絵は、ゆりかごの紐を持って手を組んでいる場面。ゴッホ自身が書簡でLa Berceuse(子守唄)と書いており、クレラー・ミュラー美術館では、絵のタイトルも《La Berceuse》としている。

同じ構図の絵は5パターンありクレラー・ミュラー美術館、メトロポリタン美術館、ボストン美術館、シカゴ美術館と、オランダとアメリカに点在している。

ゴッホ美術館の一枚が最後に描かれたものとされており、いちばん好きだ。

ゴッホ《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》

なんという慈しみの眼。笑顔はなく、口を閉じて子どもを力強く見つめている。マリア様のような聖母の眼差し。

背景の花模様が、揺りかごに合わせて、世界が優しく揺れている。背景も、子守唄を歌っている。

ゴッホ《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》

母親とは「手」である。母の手は家事や仕事でゴツゴツになっていく。モデルのような美しさはない。しかし、この手こそ、この世で最も美しい手。母親の手は子供にとって神の手と同じ。

ゴッホ美術館の一枚が、最も眼と手のバランスが素晴らしく、神々しい。視線と手だけで、その先に愛おしい赤ん坊がいることが伝わってくる。この絵は、見えない赤ん坊の肖像画でもある。子守唄を歌うのは母親ではなく、ゴッホの絵なのだ。

クレラー・ミュラー美術館の《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》

クレラー・ミュラー美術館の《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》

最初に制作された《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》とされており、耳切り事件の前に描かれたと思われる。クレラー・ミュラー美術館の創設者ヘレーネが愛した一枚。船乗りが夢見た女性を思わせ、この女性に癒しを見た。

全体の色調が明るく、眼も夫の肖像画と同じく緑色。現在、ゴッホの《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》といえば、このクレラー・ミュラー美術館の所蔵を指す。

クレラー・ミュラー美術館の《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》

クレラー・ミュラー美術館では、夫のジョセフ・ルーランの肖像画の隣に夫婦仲睦まじく展示されている。

その他の《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》

シカゴ美術館

《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》  シカゴ美術館

  • 制作:1889年1月(不確定)
  • 寸法:92.7cm × 73.8 cm
  • 所蔵:シカゴ美術館(アメリカ)

2枚目に描かれたと思われる《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》。色調を落ち着かせている。少し眼が厳しく感じる。

メトロポリタン美術館

《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》メトロポリタン美術館

  • 制作:1889年1月(不確定)
  • 寸法:93cm × 74 cm
  • 所蔵:メトロポリタン美術館(ニューヨーク)

目線が高く、少し笑顔も見える。手の組み方が違い、メトロポリタン美術館だけが、右手を上に添えている。アメリカンのマンマといったイメージ。

ボストン美術館

ゴッホ《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》

  • 制作:1889年2月(不確定)
  • 寸法:92.7cm × 73.8 cm
  • 所蔵:ボストン美術館(米国)

背景の花も色も明るく、最も笑顔。いかにも母親の愛情が伝わる。最も人気のある一枚。

『ひまわり』との三幅対

ゴッホは《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》を中央におき、両脇に《ひまわり》を配置する展示方法を構想していたらしい。劇場版『名探偵コナン 業火の向日葵』でも登場する。

別バージョンのルーラン夫人

《ルーラン夫人と乳児マルセル》

《ルーラン夫人と乳児マルセル》フィラデルフィア美術観

  • 制作:1888年11〜12月
  • 寸法:92cm × 73.5 cm
  • 所蔵:フィラデルフィア美術館(米国)

ゴッホはルーラン夫人と赤ん坊のツーショットも2枚描いている。まあ、なんと可愛いことか。赤ちゃんのほっぺに、母親と同じ緑をあしらう。若葉の緑。赤ちゃんもゴッホをやさしく見つめる。

2008年に弟とアメフトと映画『ロッキー』の舞台を観にフィラデルフィアに行ったとき、美術館に行けばよかった。貴重な《ひまわり》もあるので再訪したい。

《ルーラン夫人と乳児マルセル》メトロポリタン美術館

  • 制作:1888年11〜12月
  • 寸法:63.5cm × 51 cm
  • 所蔵:メトロポリタン美術館(アメリカ)

ニューヨークのメトロポリタン美術館の一枚。ドヤ顔で仁王立ち、元気いっぱい。2010年に弟とヤンキースと自由の女神を観にニューヨークを訪れたとき、美術館に行けばよかった。《ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女》とセットで所蔵しているところが、さすがニューヨーク。《星月夜》があるニューヨーク近代美術館と合わせて再訪したい。

《オーギュスティーヌ・ルーラン夫人》

ゴッホ《オーギュスティーヌ・ルーラン夫人》

ゴッホ《オーギュスティーヌ・ルーラン夫人》
  • 制作:1888年11〜12月
  • 所蔵:アム・レマーホルツ(スイス)

ゴッホは違うバージョンのルーラン夫人も描いている。輪郭が強く、陰影も明確で、母性よりも「ひとりの女」の重量感。漂う慈しと孤独の気配。窓辺に並ぶ鉢植えの静けさが、夫人の沈黙を引き立てる。色調は暖かく、その奥には、寂しさを帯びた秋の午後の哀愁がある。あまりゴッホっぽさを感じないのは自分だけだろうか?

ゴーギャン《オーギュスティーヌ・ルーラン夫人》

ポール・ゴーギャン《オーギュスティーヌ・ルーラン夫人》
  • 制作:1888年11〜12月
  • 所蔵:セントルイス美術館(アメリカ)

ゴッホと同居していたゴーギャンが描いたルーラン夫人。線が太く、色は平面的。背景にはゴーギャンが描いたような絵画。眼と服が同じ緑。少し冷たさを感じる。

ゴッホとは対照的。暖と寒。

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