アートの聖書

絵画、映画、ときどき音楽

映画

深谷シネマとマジェスティック、吉永小百合

映画より映画館のファンだ。生まれ育った奈良の地元には映画館がなく『ドラゴンボール』『ドラえもん』『ルパン三世』の新作が公開されると桜井市民会館に足を運んだ。 スクリーンの緞帳(どんちょう)には、大和の古地図が大きく描かれ、タイムスリップした…

細田守 虹をかける地平線

夏の入道雲を眺めるたび、大学生の頃、彼女を自転車の後ろに乗せて京都の鴨川沿いを走っていた日を思い出す。そう話してくれた人がいた。 新海誠が「音」を操るマエストロなら、細田守は「絵」の語り部。どこまでも視覚的であり、絵が物語る。絵本の世界に迷…

EUREKAユリイカ〜21世紀ナンバーワン日本映画

21世紀以降、いまだ『EUREKA』を超える実写の日本映画は現れていない。 映画監督の仕事は役者の演出でも、映像や音楽をこねくり回すことでもない。世界に眼差しを提供すること。 青山真治は白黒でもセピア色でもなく、温もりのある土色のフィルタを観客に提…

映画『めためた』:不自由の翼を広げて

映画は暗闇の世界で観るプラネタリウム。テレビではキラキラ光るキャラクターも映画では途端に味気なくなる。ちょっと救いようのない人物たちにこそシネマの神様は微笑む。スクリーンは金幕ではなく銀幕。映画は金閣寺ではなく銀閣寺。映画界にはメッキの金…

ルパン三世 カリオストロの城

『カリオストロの城』の本編は冒頭の4分のみ。炎のたからものが終わるオープニングまで。冒険の舞台であるカリオストロ公国に向かう旅情こそが作品の心臓であり、ロードムービー。目的地に到着するまでが浪漫。 「旅とは風景を捨てること」と言ったのは寺山…

木村拓哉と吉岡里帆の共通分母

ある映画メディアの編集長とお酒を飲む機会があった。好きな女優を聞かれ、吉岡里帆と答えたのだが、容姿が美しすぎるせいで過小評価されている。吉岡里帆の演技の質は木村拓哉と同じ。多くの役者は役に近づこうとするが、吉岡里帆や木村拓哉は自分の中に役…

Sin clock

2016年『アリーキャット』から7年、最高純度にして最高密度の窪塚洋介が帰ってきた。真骨頂である「透明な怒り」「漆黒の桜」「真っ赤な雪」をスクリーンに刻みつけてくれた。 監督の牧賢治は商業デビュー作。普段は会社員をやっている。これまでは借金をし…

『トップガン マーヴェリック』という未来飛行

『トップガン マーヴェリック』が公開された。続編の製作を聞いた4年前、登山の先輩と雪山に向かう車の中で、何度この話をしたことか。 無事に雪山を下りて新宿へ帰る車内、生還の証に『Top Gun Anthem』を流す。明日を勝ち獲った瞬間を祝して。 大学生の頃…

シンドラーのリスト

子どもの頃からアニメや戦隊モノを見ても、主人公よりライバルに惹かれていた。双子に生まれ、マジメな弟と比較され、劣等感を抱えていたことが影響したのだろう。主役の引き立て役となる影に、自分を重ねていた気がする。 『シンドラーのリスト』を見ても、…

松田龍平〜陽炎の如く

松田龍平は『まほろ駅前』シリーズの行天春彦のように、透明の濃い俳優だ。夏の陽炎のように、砂漠の蜃気楼のように、掴みどころがないのに存在感が強い。ボーッとしているようで、内側を見透かす半眼はチベットで見た仏像を思い出す。 『まほろ駅前狂騒曲』…

濱口竜介・白昼夢を描く世界一の映画監督

令和は元年に台風19号ハギビスで幕を開け、翌年にはウイルスによって人間不信が蔓延していった災害の時代。 しかし、令和四年を迎えるにあたってようやく一筋の光が射した。悪夢を白昼夢に変えてくれる存在が現れた。 18歳から映画を観続けて20年。初めて日…

クライ・マッチョとクリント・イーストウッド

歳をとると早起きになるのは、朝の光に恋をするからだ。 クリント・イーストウッドの監督50周年にして40作目の映画『クライ・マッチョ』は朝の場面が多い。 メキシコの曙光が、91歳のイーストウッドを祝福する。主人公は14歳のラフォとも言えるが、主演、監…

ジム・ジャームッシュを漂流する

梅雨が早々に明けた令和三年7月の東京。緊急事態宣言中でも、ようやく映画館の20時以降の上映が解禁。映画は暗闇の中で観るものであり、夜の芸術。映画館はブラックホールであり、役者は星であり、スクリーンはプラネタリウム。本来、休日は登山に出かけるは…

映画について語るときに僕が語ること

去年の1月にTwitterを始めたとき、大学生の男性と相互フォローをした。映画が好きで、作品の解説をYouTubeにアップしていた。 その感想をTwitterにコメントすると「そんな見方があるんですね!」「その表現とても好きなので使わせてください!」と反応してく…

ランボー/ラストブラッド

シリーズ第1作『First Blood』の原題を、日本は『ランボー』と人物名のタイトルで上映した。 5作目の『ランボー/ラスト・ブラッド』はシリーズ完結篇であり、いよいよランボーとは何者なのか?を定義するタイミングである。 ミャンマーから故郷アリゾナの牧…

レヴェナント:蘇えりし者

『レヴェナント:蘇えりし者』は2010年代ナンバーワン映画である。監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは2位の『バードマン』と合わせての1、2フィニッシュで10年間を駆け抜けた。 映画が公開されたのは2016年の4月。半年後、登山家の撮影隊として…

八甲田山

映画『八甲田山』は、世界映画史において最高傑作の一つであり、クライマーにとっては呪いの映画である。 一コマたりとも無駄がなく、169分の上映時間は究極の凝縮であり、崇高なる昇華。 映画は人間が成し得る最大の饗宴であり、『八甲田山』がそう。 原作…

エヴェレスト 神々の山嶺

『エヴェレスト神々の山嶺』は自分の血だ。酷評を耳にすると、家族がバカにされたように感じてしまう。 あなたにだってあるだろう。他人事ではいられない、自分自身と呼べる一作が。 映画が公開された半年後の2016年9月、私はチベットの標高5900mで1ヶ月半…