
ハーモ美術館は、長野県下諏訪町の諏訪湖の畔に位置する私立美術館。心地よい光と風に包まれ、訪れる人に穏やかな時間を提供する。
アンリ・ルソーやグランマ・モーゼスなどの素朴派(パントル・ナイーフ)の作品をはじめ、シャガール、ミロ、ルオー、マティス、ダリなど、世界的な巨匠の作品を展示。特に、アンリ・ルソーの作品は国内最多の9点を所蔵しており、貴重なコレクションとなっている。

館内は落ち着いた雰囲気で、諏訪湖の自然と美術作品が一体となるよう設計されており、大きな窓からは湖を一望できる。
諏訪湖を訪れる旅人にとって、ハーモ美術館は自然と芸術の両方に出会える場所。館内の静けさと、湖から差し込むやわらかな光が、作品との対話を深めてくれる。
ハーモ美術館までの道のり

ハーモ美術館は下諏訪駅から徒歩15分。新宿からのバスは安定の1時間半遅れで下諏訪駅に到着。4年前の秋に諏訪湖の黄昏とトワイライトを見に来たときも1時間半遅れた。外国より時間感覚が酷い。電車での利用をおすすめする。
唯一の救いは天気は良いがそこまで暑くないこと。湖風のおかげだ。

2024年9月13日、空には細田守の世界が広がっている。こんなすごい入道雲はなかなか観られない。自然のアートは偉大。アンリ・ルソーに会いにはるばる長野まできた。

ルソーの絵画の約1割は日本にある。ひろしま美術館でも観てきた。どれもイマイチ。しかし、来年出版するアートの書籍に載せる一枚があるかもしれない。それを確かめに諏訪湖に向かった。
ハーモ美術館の外観

ハーモ美術館は諏訪湖の湖畔に佇む閑かなミュージアム。

「H」の野外彫刻が目印で産業用ロボットメーカーである株式会社ハーモの創業者、濱富夫と関たか子によって1990年4月に開館。企業がオーナーといえば東京のアーティゾン美術館が代表。

大都会のビルに囲まれた東京都違い、「みずべ公園」に隣接し、親子の憩いの風景も見られる。
エントランス

エントランスでコレクション展の千円を支払う。ハーモ美術館は複雑な構造になっており、館内の歩き方ガイドからはじまる。

建物は、コンクリート打ちっぱなしの曲線的なデザインが特徴。館内には吹き抜けの「ティーセントホール」や、靴を脱いで鑑賞できる別館など、訪れる人々がゆったりとアートを楽しめる空間が広がっている。
ハーモ美術館の常設展示室

2階へ上がるとパントル・ナイーフ(素朴派)の画家たちの作品が出迎え。バルビゾン派で彩る山梨県立美術館に似ている。空間の写真は撮っても良いが作品の撮影は不可。
アンドレ・ボーシャン《フルーツのある風景》

画像引用:FC2
トップバッターがアンドレ・ボーシャン。20世紀前半のフランス画家。ワインの産地として有名なロワール地方を愛し、定住した。名前は知っていたが作品を観るのは初めだ。特に素晴らしいのが《フルーツのある風景》。遠景と手前のフルーツ。彼方への憧れと足元の恵み。そこに優劣はない。風景は非日常を求め、日常を愛でるためにある。
ルイ・ヴィヴァン《ラングル駅の風景》

画像引用:ハーモ美術館
衝撃はルイ・ヴィヴァンというフランスの画家。ルソーと並ぶ素朴派(パントル・ナイーフ)の画家らしい。どう見ても山下清の絵だと思った。アートには双子がいる。山Pは「日本のゴッホ」と呼ばれたが、日本のルイ・ヴィヴァンが正しい。

ハーモ美術館は何気ないエレベーターに絵画があったりする。これは展示なのか?それとも保管なのか?

壁にはゴッホ《黒い鳥のいる麦畑》のタペストリー。面白い美術館だ。
アンリ・ルソー《花》

画像引用:ハーモ美術館
アンリ・ルソーが亡くなった最晩年である1910年の絵画。国内で鑑賞できる唯一のルソーの花の静物画。タイトルは《花》だが、ルソーは《はな》とひらがなが似合う。花は生殖器であり、あらゆる画家の花の作品には官能がある。なのにルソーには艶がない。花瓶も花びらも葉もすべてが正面を向いている。真正面から花と向き合い、その形、色を愛した。花が生殖器であるという真実はどうでもいい。ルソーという画家の人格が表れている。
アンリ・ルソー《果樹園》

1886年の制作。色彩のシンフォニー、なのに寂しい、なのに心が温まる。ルソーの風景画は凹凸がない平面。そして、必ず人がポツンといる。鮮やかな自然と対照に黒い。寂しい。でも孤独ではない。風景があるから。居場所があるから。我々は風景の中で生きている。我々は孤独だ。しかし、世の中に「完璧」も「完全」も存在しないように、完全な孤独は存在しない。
アンリ・ルソー《ラ・カルマニョール》

1893年の作品。今回の訪問の目的。カルマニョールは、フランス革命の輪舞。1893年の装飾壁画コンクールに落選した作品。いったい何色あるのか。見守る者、求婚する者。菩提樹のような下で赤いフリジア帽をかぶった14人が踊る。十二使徒とキリスト、そしてルソーの14人。これはルソーが描いた最後の晩餐。
全員、服の色が違う。テンポも、身体の角度も、顔の向きも違う。それが一つの踊りになり、輪になっている。それが人間。それが地球。
別々の生きものが、それぞれの個性で、それぞれのペースで生きる。それが輪になり、和になる。ルソーが描く人生のメリーゴーラウンド。
ハーモ美術館の別館

常設展示室を出ると目の前に諏訪湖が広がる。雲がなければ富士山が見える。ここからの夕陽の落陽はさぞかし美しいだろう。

アトリエをイメージした別館は靴を脱いで鑑賞する。ジョルジュ・ルオーの作品群がピラミッドに並べられている。映像はアンリ・ルソーの人生。

2階に上がるとマルク・シャガールの緑の絵。

オレンジ、グリーン、イエローのシャガールの絵が並ぶ。しかし、やはり青が別格。シャガール・ブルーは偉大。
ハーモ美術館 ティーセントホール

吹き抜けになっているハーモ美術館 ティーセントホール。アートの教会、美のゴスペルに迷い込んだよう。今回はサルバドール・ダリが描いた『不思議の国のアリス』の挿絵が並んでいた。小説を読んでおけばよかった。

1階に降りるとピカソやジョアン・ミロの作品が並ぶ。ピカソの素描が多く、こんな下手な絵も描けるピカソはやはりすごい。
サルヴァドール・ダリ《時のプロフィール》

ダリの最晩年1977年〜1984年に造られたブロンズ像。唯一、作品の撮影が許されたブロンズ像。ダリには時を溶かす熱、炎がある。ハーモ美術館のコンセプトである「時のない美術館へ」を象徴する作品。

ダリは答えではなく、大いなる謎をくれる画家。それこそがアート。答えは「作品」ではなく「観る者」の中にしかない。

二又の木は十字架から降ろされたキリストを支えるマリア様。時計の数字は12個。すなわち十二使徒。ダリが描く時計はキリスト。時が溶け、キリストが滅び、新しい時代が始まる。いや、キリストはダリ自身。すべての絵画は自画像。ダリが時間を溶かしたのは、俺はキリストだと言いたかったのだ。ダリにとって絵筆は太古と現在の時空を溶かすハンダゴテである。
美術館メシ:ル・カフェ・ダルモニー

ハーモ美術館のミュージアム・カフェ「ル・カフェ・ダルモニー」。ミュージアムショップと一体になっており諏訪湖が一望できる。カフェだけの利用もOK。

奥には和室があり、アンリ・マティスの切り絵とジョルジュ・ルオーの作品が展示してある。なんとユニークな展示。

ミュージアムショップのトレーは可愛い。グランマ・モーゼスの絵画だろう。

ラ・カルマニョールのポストカード220円を買った。

スペインの焼き菓子マンテカードとソフトクリーム。オリジナル珈琲。器も見事なアート。素朴だが個性が強い。

外に出ると黄昏時。諏訪湖の美しいトワイライトが始まる。
上手い絵は腐るほどある。しかし、本当に素晴らしい絵は美味い。味わい深いのだ。なぜか?技だけでなく青春があるから。絵画の傑作の多くは生まれ故郷にいない。海外に飛び出す。絵に宿る青春が国を超えて人々を惹きつけ、祖国を飛び出す。ハーモ美術館が教えてくれる。
ハーモ美術館の概要
- 開館: 1990年4月
- 住所:長野県諏訪郡下諏訪町10616-540
- 設計:舟橋設計事務所
- 営業:9:00〜17:00(入館は16:30まで)
- 定休:火曜日(祝日の場合は開館)
- 所蔵:約400点
- 目玉:ルソー《ラ・カルマニョール》
- メシ:ル・カフェ・ダルモニー
アンリ・ルソーに出逢える美術館
シャガールに出逢える美術館
サルバドール・ダリに出逢える美術館
バルビゾン派に逢える美術館
日本の美術館ランキング
東京のおすすめ美術館