アートの聖書

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クライ・マッチョとクリント・イーストウッド

クライ・マッチョ

歳をとると早起きになるのは、朝の光に恋をするからだ。

クリント・イーストウッドの監督50周年にして40作目の映画『クライ・マッチョ』は朝の場面が多い。

メキシコの曙光が、91歳のイーストウッドを祝福する。主人公は14歳のラフォとも言えるが、主演、監督、音楽までつとめたイーストウッドは主役の座をゆずらない。

原作ではラフォを父親の元には返さず、メキシコに残す。だが、あえて映画では正反対の結末にドリフトした。メキシコに残れば愛に包まれた幸せな生活を送れるが、真のマッチョ(強き者)にはなれない。たとえ望まない人生であろうと、前に進むためには立ち向かうことが必要だ。

少年もそれが分かっているから、愛鶏のマッチョを老カウボーイに託し、独りでテキサスに向かった。一方のカウボーイは、91歳にして若い女性の待つメキシコに向かう。これがイーストウッド流のケジメ。暴力シーンは年々減っているが、乱暴力・暴走力は増している。

人生はロデオのように振り落とされそうになるが、本当に愛しているなら執着してしがみつけばいい。少年より少年の眼をする91歳のクリント・イーストウッド。「加齢」とは華麗に年を重ね、みずみずしい童心に帰ること。皮膚は灰のようになっても、眼差しはダイヤモンド。

“終活”はこの世で最も不要なことば。91歳のイーストウッドのように、何度でも朝を始めればいい。