アートの聖書

美術館巡りの日々を告白。美術より美術館のファン。

ヤマザキマザック美術館〜名古屋に咲いたロココの花、華やぎに浸るミュージアム

ヤマザキマザック美術館,名古屋,新栄町

ヤマザキマザック美術館は、愛知県名古屋市にある私設美術館。オーナーは、工作機械メーカー「ヤマザキマザック」。その名を冠し、2010年(平成22年)4月23日に開館した。設計は、箱根のポーラ美術館も手がけた日建設計。

ヤマザキマザック美術館,名古屋,新栄町

日本では珍しく18世紀の宮廷文化の中で花開いたロココ美術(愛や遊び、神話を明るく描いた美術)を中心にコレクション。エコール・ド・パリや現代アートまで約300年の流れを一望できる。

f:id:balladlee:20250627152526j:image加えて、エミール・ガレに代表されるアール・ヌーヴォーのガラス工芸や家具も充実しており、約300点の質の高い作品を所蔵。

マイセンの食器

マイセンの食器まで揃い、美術都市・名古屋の文化的豊かさを象徴している。日本で貴重なロココ美術の殿堂を訪れてほしい。

ヤマザキマザック美術館の魅力

駅直結の好アクセス

ヤマザキマザック美術館,名古屋,新栄町

ヤマザキマザック美術館の最寄り駅は、名古屋市営地下鉄東山線「新栄町駅」。栄駅から1駅で、しかも駅直結。雨の日でも濡れずに来館できる。

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徒歩圏内に愛知県美術館、名古屋市美術館もあり、東京の上野と肩を並べる美術の密度を誇っている。

ゴージャスな内観

ヤマザキマザック美術館,名古屋,新栄町

ヤマザキマザック美術館は、5階に絵画、4階に家具や工芸品を展示。空間設計が巧みで、作品だけでなく展示環境にも感動がある。一部を除いて写真撮影が許可されており、作品との距離が近いのも特長。

ヤマザキマザック美術館,名古屋,新栄町

華やかなロココ絵画は、赤い壁とシャンデリアが輝く、宮廷の一室のような空間。オランダ・ハーグのマウリッツハイス王立美術館を思わせる上質な演出で、絵画だけでなく空間ごと楽しめる。

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印象派などの素朴な絵画は、シンプルな展示室に配され、作品の個性が際立つ。

ヤマザキマザック美術館,名古屋,新栄町

4階の家具展示室は黒を基調に、工芸品の光と質感が浮き上がるよう工夫されている。

ヤマザキマザック美術館のコレクション

ヤマザキマザック美術館,名古屋,新栄町

2025年3月28日から10月19日まで、所蔵品を一挙に公開する展覧会「所蔵品展―春から秋へ―」が開催。半年以上にわたる大規模展で、ヤマザキマザック美術館の至宝たちを堪能できる。常設展示室がないのが惜しく、代表作をいつでも観られるようにしてほしい。

ロココ美術

《犬と遊ぶ子供》

ジャン=バティスト・グルーズ,1767年頃

ジャン=バティスト・グルーズ,1767年頃

最初の展示は、ロココ時代に活躍したフランスの風俗画家グルーズ。そこまで知名度は高くないが、画力の高さを見せつける。最初の展示としてはグッド。

《アウロラとケファロス》

フランソワ ブーシェ,1745年頃

フランソワ・ブーシェ,1745年頃

ロココ美術を代表するフランソワ・ブーシェの作品。縦横とも2mを超える巨大絵画。

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天使や女神より犬や馬の動物がうまい。

《恋文》

フランソワ・ブーシェ,1745年頃

フランソワ・ブーシェ,1745年頃

同じくブーシェが作者の田園を背景にした牧歌画(パストラル)。動物の描写が良いので、絵画全体を引き締める。

《エカチェリーナ・フェオドロヴナ・ドルゴロウキー皇女》

エリザベト・ルイーズ ヴィジェ=ルブラン,1797年頃

エリザベト・ルイーズ ヴィジェ=ルブラン,1797年頃

ドラクロワやアングルなどロマン主義、新古典主義の絵画の隣に展示され、巨匠たちを凌駕するのが、ロココを代表するフランスの女性画家ルブラン。日本で観られるのは貴重。町娘でありながら高貴を備えている。女性の肖像画の傑作。

《リラを弾く女性》

エリザベト・ルイーズ ヴィジェ=ルブラン,1804年

エリザベト・ルイーズ ヴィジェ=ルブラン,1804年

同じくルブランの見事なトロニー(人物画)。

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眼が楽器になっている。瞳が音色になっている。

印象派

ルノワール《母の愛、あるいは息子ピエールに授乳するルノワール夫人》1916年

ルノワール《母の愛、あるいは息子ピエールに授乳するルノワール夫人》1916年

 

《果物皿》

ピエール=オーギュスト・ルノワール,1911年

ピエール=オーギュスト・ルノワール,1911年

全国どこでもあるルノワール。ルノワールっぽくない作品も多いが、これは愛情と柔らかな色彩に包まれたルノワールっぽい静物画。

《アムステルダムの港》

クロード・モネ,1874年

クロード・モネ,1874年

モネがオランダを訪れた際に描いた絵。作品の出来は良くなく、スケッチに近い。

ピサロやシスレーの海の絵もある。

カミーユ・ピサロ《ルーアンの波止場・夕陽》1896年

カミーユ・ピサロ《ルーアンの波止場・夕陽》1896年

アルフレッド・シスレー《サン=マメのロワン運河》1885年

アルフレッド・シスレー《サン=マメのロワン運河》1885年

自然主義・フォービズム・ナビ派

《波、夕暮れにうねる海》

ギュスターヴ・クールベ,1869年

ギュスターヴ・クールベ,1869年

夕景の淡さと波の力強さの対比。さすがクールベ。重厚な自然の声が聞こえる。日本には山梨県立美術館国立西洋美術館、島根県立美術館にもクールベの《波》がある。

《税関前の艦船》

アルベール・マルケ,1942-43年

アルベール・マルケ,1942-43年

平坦だが、平坦な中に深みがある。モネやピサロより風景を閉じ込めている。

《聖母月》

モーリス・ドニ, 1907年

モーリス・ドニ, 1907年

聖母月はキリスト教の5月のこと。すべてが雪景色、雪化粧。始まりの祝祭。

《ジプシーの肖像》

アンドレ・ドラン,1930年頃

アンドレ・ドラン,1930年頃

トロニー(不特定の人物画)の傑作。目が虚ろ。人間味が滲み出ている。

《アネモネ》

 エドゥアール・ヴュイヤール,1906年

 エドゥアール・ヴュイヤール,1906年

花の美しさがないが、美的なセンスを感じる不思議な一枚。花瓶の立たせ方が見事。

エコール・ド・パリ

マリー・ローランサン《シェシア帽を被った女》	1938年

マリー・ローランサン《シェシア帽を被った女》 1938年

《ポール・アレクサンドル博士の肖像》

アメデオ・モディリアーニ,1909年

モディリアーニと親しかったフランス人医師の肖像画。モディリアーニの作品を買い続けた。細長くスマートに描くことで聡明さを増している。

《マルカデ通り》

 モーリス・ユトリロ,1911年

ユトリロ、白の時代。青空の奥行き、紅葉の赤。白がクリーム色でやさしい。

《緑の木々》

シャイム・スーチン,1923-24年

ゴッホのような歪み、うねり。木々の力強さが失われず増している。

《ミモザとヒヤシンス》

 モイーズ・キスリング,1946年

花の静物画の傑作中の傑作。花というより宝石。背景の淡さ、グラデーションも見事。

《女性の肖像》

 モイーズ・キスリング,1939年

グレーの髪の生命力が凄い。ドラキュラなような魔力。

《雉子と鴨》

モイーズ・キスリング,1935年

肌の艶。讃岐うどんのようなコシノ強さ。

《3人の若い女》

マリー・ローランサン,1935年

淡くやわらかい表情。のっぺりなのに、静かな引力がある。

美術館メシ

カフェテリア・トペ

ヤマザキ・マザック美術館,名古屋,新栄町

ナイト・ミュージアムも実施しているヤマザキ・マザック美術館は、美術館メシが充実している。地下1階にはワインバーの「ラ・フェット」、地下2階にはフランス料理の「壺中天(こちゅうてん)」、イタリアンの「トラットリア・トペ」がある。

ヤマザキ・マザック美術館,名古屋,新栄町

そして、1階のロビーにあるのが「カフェテリア・トペ」。解放感ある空間に40席と広いスペース。軽食やスイーツが愉しめる。

ヤマザキ・マザック美術館,名古屋,新栄町

おすすめは「トペ特製ハヤシライス」(1200円/ドリンクセット1500円)。高級感のある味わいで、しっかり煮込まれた旨味が口に広がる。スイーツには、ロココ的な気分で「パンナコッタ」(650円)をぜひ。

ヤマザキマザック美術館の概要

  • 開館:2010年(平成22年)4月23日
  • 住所:愛知県名古屋市東区葵1丁目19−3
  • 設計:日建設計
  • 所蔵:約300点
  • 目玉:ルブラン《エカチェリーナ・フェオドロヴナ・ドルゴロウキー皇女、キスリング《花束》
  • 撮影:OK
  • メシ:カフェテリア・トペ
  • アクセス:名古屋市営地下鉄東山線「新栄町駅」直結

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