ヤマザキマザック美術館は、愛知県名古屋市にある私設美術館。オーナーは、工作機械メーカー「ヤマザキマザック」。その名を冠し、2010年(平成22年)4月23日に開館した。設計は、箱根のポーラ美術館も手がけた日建設計。
日本では珍しく18世紀の宮廷文化の中で花開いたロココ美術(愛や遊び、神話を明るく描いた美術)を中心にコレクション。エコール・ド・パリや現代アートまで約300年の流れを一望できる。
加えて、エミール・ガレに代表されるアール・ヌーヴォーのガラス工芸や家具も充実しており、約300点の質の高い作品を所蔵。
マイセンの食器まで揃い、美術都市・名古屋の文化的豊かさを象徴している。日本で貴重なロココ美術の殿堂を訪れてほしい。
ヤマザキマザック美術館の魅力
駅直結の好アクセス
ヤマザキマザック美術館の最寄り駅は、名古屋市営地下鉄東山線「新栄町駅」。栄駅から1駅で、しかも駅直結。雨の日でも濡れずに来館できる。
徒歩圏内に愛知県美術館、名古屋市美術館もあり、東京の上野と肩を並べる美術の密度を誇っている。
ゴージャスな内観
ヤマザキマザック美術館は、5階に絵画、4階に家具や工芸品を展示。空間設計が巧みで、作品だけでなく展示環境にも感動がある。一部を除いて写真撮影が許可されており、作品との距離が近いのも特長。
華やかなロココ絵画は、赤い壁とシャンデリアが輝く、宮廷の一室のような空間。オランダ・ハーグのマウリッツハイス王立美術館を思わせる上質な演出で、絵画だけでなく空間ごと楽しめる。
印象派などの素朴な絵画は、シンプルな展示室に配され、作品の個性が際立つ。
4階の家具展示室は黒を基調に、工芸品の光と質感が浮き上がるよう工夫されている。
ヤマザキマザック美術館のコレクション
2025年3月28日から10月19日まで、所蔵品を一挙に公開する展覧会「所蔵品展―春から秋へ―」が開催。半年以上にわたる大規模展で、ヤマザキマザック美術館の至宝たちを堪能できる。常設展示室がないのが惜しく、代表作をいつでも観られるようにしてほしい。
ロココ美術
《犬と遊ぶ子供》
最初の展示は、ロココ時代に活躍したフランスの風俗画家グルーズ。そこまで知名度は高くないが、画力の高さを見せつける。最初の展示としてはグッド。
《アウロラとケファロス》
ロココ美術を代表するフランソワ・ブーシェの作品。縦横とも2mを超える巨大絵画。
天使や女神より犬や馬の動物がうまい。
《恋文》
同じくブーシェが作者の田園を背景にした牧歌画(パストラル)。動物の描写が良いので、絵画全体を引き締める。
《エカチェリーナ・フェオドロヴナ・ドルゴロウキー皇女》
ドラクロワやアングルなどロマン主義、新古典主義の絵画の隣に展示され、巨匠たちを凌駕するのが、ロココを代表するフランスの女性画家ルブラン。日本で観られるのは貴重。町娘でありながら高貴を備えている。女性の肖像画の傑作。
《リラを弾く女性》
同じくルブランの見事なトロニー(人物画)。
眼が楽器になっている。瞳が音色になっている。
印象派
《果物皿》
全国どこでもあるルノワール。ルノワールっぽくない作品も多いが、これは愛情と柔らかな色彩に包まれたルノワールっぽい静物画。
《アムステルダムの港》
モネがオランダを訪れた際に描いた絵。作品の出来は良くなく、スケッチに近い。
ピサロやシスレーの海の絵もある。
自然主義・フォービズム・ナビ派
《波、夕暮れにうねる海》
夕景の淡さと波の力強さの対比。さすがクールベ。重厚な自然の声が聞こえる。日本には山梨県立美術館、国立西洋美術館、島根県立美術館にもクールベの《波》がある。
《税関前の艦船》
平坦だが、平坦な中に深みがある。モネやピサロより風景を閉じ込めている。
《聖母月》
聖母月はキリスト教の5月のこと。すべてが雪景色、雪化粧。始まりの祝祭。
《ジプシーの肖像》
トロニー(不特定の人物画)の傑作。目が虚ろ。人間味が滲み出ている。
《アネモネ》
花の美しさがないが、美的なセンスを感じる不思議な一枚。花瓶の立たせ方が見事。
エコール・ド・パリ
《ポール・アレクサンドル博士の肖像》
モディリアーニと親しかったフランス人医師の肖像画。モディリアーニの作品を買い続けた。細長くスマートに描くことで聡明さを増している。
《マルカデ通り》
ユトリロ、白の時代。青空の奥行き、紅葉の赤。白がクリーム色でやさしい。
《緑の木々》
ゴッホのような歪み、うねり。木々の力強さが失われず増している。
《ミモザとヒヤシンス》
花の静物画の傑作中の傑作。花というより宝石。背景の淡さ、グラデーションも見事。
《女性の肖像》
グレーの髪の生命力が凄い。ドラキュラなような魔力。
《雉子と鴨》
肌の艶。讃岐うどんのようなコシノ強さ。
《3人の若い女》
淡くやわらかい表情。のっぺりなのに、静かな引力がある。
美術館メシ
カフェテリア・トペ
ナイト・ミュージアムも実施しているヤマザキ・マザック美術館は、美術館メシが充実している。地下1階にはワインバーの「ラ・フェット」、地下2階にはフランス料理の「壺中天(こちゅうてん)」、イタリアンの「トラットリア・トペ」がある。
そして、1階のロビーにあるのが「カフェテリア・トペ」。解放感ある空間に40席と広いスペース。軽食やスイーツが愉しめる。
おすすめは「トペ特製ハヤシライス」(1200円/ドリンクセット1500円)。高級感のある味わいで、しっかり煮込まれた旨味が口に広がる。スイーツには、ロココ的な気分で「パンナコッタ」(650円)をぜひ。
ヤマザキマザック美術館の概要
- 開館:2010年(平成22年)4月23日
- 住所:愛知県名古屋市東区葵1丁目19−3
- 設計:日建設計
- 所蔵:約300点
- 目玉:ルブラン《エカチェリーナ・フェオドロヴナ・ドルゴロウキー皇女、キスリング《花束》
- 撮影:OK
- メシ:カフェテリア・トペ
- アクセス:名古屋市営地下鉄東山線「新栄町駅」直結
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