アートの聖書

美術館巡りの日々を告白。美術より美術館のファン。

ルノワールと少女画、光の服、未来への視線

ルノワールと少女画、光の服、未来への視線

少女を描かせたらルノワールの右に出る者はいない。史上最高の「少女画」は《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢》である。ルノワールは、少女の肌に光を着せた。

ルノワール少女画の代表作・有名作品

ロメーヌ・ラコーの肖像

ルノワール《ロメーヌ・ラコーの肖像》

  • 制作:1864年
  • 寸法:81 x 65cm
  • 所蔵:クリーブランド美術館(米国)

ルノワールが画家として本格的に活動を始めた23歳頃に描いた少女の肖像画。依頼を受けて描いた最初の肖像画。背景、表情、服装、手のしぐさ。あらゆる要素を繊細に構成し、ルノワールはこの一枚に、少女という存在の一瞬の静謐と、その奥にある人格を鮮やかに捉えてみせた。

シルク・フェルナンドの曲芸師

ルノワール《シルク・フェルナンドの曲芸師》

  • 制作:1879年
  • 寸法:131.2×99.2cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:シカゴ美術館

サーカス団「フェルナンド・サーカス」の17歳フランシスカ・ヴァルテンベルクと14歳の妹アンジェリーナを描いた一枚。幼い少女が舞台の中央に静止しているだけの場面でありながら、強い官能性が漂う。男が少女を「品定め」している空気に満ちている。

イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢

イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢

  • 制作:1880年
  • 寸法:65cm×54 cm
  • 所蔵:チューリッヒ美術館(スイス)

行家ルイ・ラファエル・カーン・ダンヴェールと妻ルイーズの娘イレーヌ。年齢は8歳。世界に存在する少女画の最高傑作。この絵を観ると、誰もが初恋を思い出す。永遠の初恋の一枚。

バラ色と青色の服を着た少女たち

《バラ色と青色の服を着た少女たち》

  • 英題:Pink and Blue
  • 制作:1881年
  • 寸法:119x74cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:サン・パウロ美術館(ブラジル)

姉イレーヌを描いた翌年、妹のアリスとエリザベートを描いた少女画。姉イレーヌの妖艶さにはない、子どもの真っ直ぐな無垢さ。ルノワールは飾らず、率直に、そして慈しみをもってこの姉妹を描き出した。

白いエプロンの少女

ルノワール《白いエプロンの少女》

  • 原題:Portrait of Lucie Berard
  • 制作:1884年
  • 寸法:36 cm × 27 cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:個人蔵

ルノワールが柔らかな筆致を離れ、輪郭と緊張を重視した「硬い時代」を象徴する一枚。モデルは外交官でありパトロンでもあったジョルジュ・ベラールの娘、4歳のリュシー・ベラール。

年齢に似つかわしくない大人びた唇と達観した眼差しが、幼さと未来の女性性を同時に映し出している。ルノワールが描いたのは単なる幼児の肖像ではなく、「今の無垢」と「これから訪れる魅力」という時間の二重写しである。

フラフープの少女

ルノワール《フラフープの少女》

  • 英題:Girl with a Hoop
  • 制作:1885年4月
  • 寸法:125.7 x 76.6 cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:ロンドン・ナショナル・ギャラリー

モデルは9歳のマリー・ゴージョンで、依頼を受けて描かれた肖像画である。少女の肌や衣装は硬めの筆致ながら、光に包まれて透き通るような無垢さを放つ。

淡いブルーと白のドレスに鮮やかなリボンが映え、無邪気さよりも気品を強く感じさせる。その立ち姿は遊ぶ子どもではなく、舞踏会の主役のようである。フープを持つ仕草は遊びの一瞬を示しながら、ルノワールは少女の時間をとどめている。

ピアノを弾く少女たち

ルノワール《ピアノを弾く少女たち》

  • 別題:ピアノに寄る少女たち
  • 制作:1892年
  • 寸法:116 cm × 90 cm
  • 所蔵:オルセー美術館(パリ)

1892年にパリのリュクサンブール美術館の非公式の依頼で制作した一枚。絵のモデルはわかっていおらず、知り合いのブルジョワ家庭と思われる。ルノワールの絵画の中で、最も愛される絵画でもある。

ルノワールの少女画が観られる日本の美術館

ポーラ美術館《レースの帽子の少女》

ピエール・オーギュスト・ルノワール《レースの帽子の少女》1891年

《レースの帽子の少女》1891年

少女とは何かを表す一枚。少女とは「斜め」。世の中を斜めに見つめ、眼と唇で世の中を誘惑する。不自然に大きい胸も男を誘う。少年は男になるが、少女は最初から女。ルノワールはそれを捉えている。

アーティゾン美術館 《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》  1876年

 《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》 1876年

肌には青い斑点があり、死相にも見える。不気味だ。しかし、ブルーは熱い色。斑点は少女の宣戦布告。足の組み方は『ペーパー・ムーン』のテイタム・オニールの虚空と煙草。少女は年齢より先の世界を見つめている。遥か先の時空を生きている。地面に足がつかない。この世を浮遊している。浮世している。

アーティゾン美術館 《少女》

ピエール=オーギュスト・ルノワール《少女》1887年

《少女》1887年

服と瞳をブルーに。髪だけが成熟している。晩年のルノワールの眼に少女はどんな存在だったのか。

国立西洋美術館《帽子の女》

《帽子の女》1891年

《帽子の女》1891年

年齢不詳。タイトルが「Woman with a Hat」なので少女ではない可能性が高い。見た目も幼くない、服装も豪華、おっぱいも膨らんでいる。でもルノワールが描くと少女にも見える。少女がこんな帽子をかぶって、こんなポーズをとれば素敵ではないか。真珠は大人よりも少女のほうが似合うのではないか。

ルノワールが描く少年

《猫を抱く少年》1868年

  • 制作: 1868年
  • 寸法: 124cm×67 cm
  • 所蔵: オルセー美術館(フランス)

26歳のルノワールが描いた唯一の少年の裸体といわれる作品。ルノワールの最高傑作の一枚。この少年は誰なのかわからない。布と脚を組んだポーズ。これほど官能的な構図はない。色は暗く死臭すらある。これから大人になる憂鬱を描いている。自画像が少なかったルノワールの自画像に思えてならない。

ルノワールという画家

ルノワール

《自画像》1910年

ピエール=オーギュスト・ルノワールは1841年2月25日、フランス中南部の磁器の町リモージュで生まれた。7人兄弟の6番目。3歳でパリに移り住み、20歳の頃から画家を目指したといわれる。

23歳でサロンに入選するも生活は苦しく、33歳のときに「第1回印象派展」を開催するも評価は得られず、36歳で描いた《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》も評価は厳しかった。

評価されるようになったのは1892年にデュラン=リュエル画廊で開いた個展に出展した《ピアノに寄る少女たち》が4000フランで政府買上げになってから。ピカソやマティスから尊敬されるのとは対照に、世間はルノワールに追いつけなかった。

《自画像》1910年

1897年に、自転車から落ちて右腕を骨折し、リウマチを発症。その後は、療養のため冬を南フランスで過ごすことが多くなった。晩年はレジオンドヌール勲章を授与され評価は上がったが、 1919年12月3日に78歳で亡くなる。絵画の値段が高騰していったのは死後だった。

美術評論家が語るルノワールの少女画

ルノワールの少女画が魅力的な理由は、彼の独自の色彩感覚、柔らかな筆致、そして少女たちの生き生きとした表情と仕草にある。

1. 光をまとう肌と柔らかな筆致

ルノワールの少女たちは、まるで光をその身にまとっているかのように描かれる。彼の筆遣いは柔らかく、境界線を曖昧にしながらも、肌のぬくもりや質感を見事に表現している。少女の肌は、まるで桃の表面のように微細なグラデーションで描かれ、生命力にあふれている。光の反射を巧みに捉え、単なる造形を超えて「息づく存在」として画面に浮かび上がるのだ。

2. 無垢な表情と仕草

ルノワールの少女画の魅力は、単なる美しさではなく、「生命の輝き」を宿している点にある。少女たちは、どこか夢見がちでありながらも、生きる喜びに満ちた表情を浮かべる。頬を赤らめ、目を輝かせる彼女たちは、こちらを見つめることもあれば、視線を逸らして何かに想いを馳せていることもある。その仕草の自然さが、まるで彼女たちが本当にそこに存在しているかのような錯覚を与える。

3. 豊かな色彩とふんわりとした空気感

ルノワールの色彩は温かく、柔らかい。ピンクやオレンジ、クリーム色といった暖色系を巧みに用いながら、少女の頬や衣服にふわりとした光を宿らせる。背景には青や緑が溶け込むことで、人物が浮かび上がり、まるで春のそよ風のなかにいるような心地よさを生み出す。筆致の軽やかさも手伝い、絵全体がふんわりとした空気をまとい、観る者の心を優しく包み込む。

4. 人生の幸福への讃歌

ルノワールの芸術には、「人生を肯定する力」がある。少女たちは純粋無垢でありながら、どこか官能的な美しさも漂わせる。だが、それは決して淫靡なものではなく、むしろ生命の輝きを祝福するような描かれ方をしている。ルノワールにとって、美とは儚くも愛おしいもの。それを最もよく象徴するのが、少女たちの存在なのだ。

5. 触れたくなるような存在感

ルノワールの少女たちは、単なる絵の中の存在ではなく、まるでこちらに語りかけてくるかのようなリアリティを持つ。彼の筆遣いが生む質感、温かな色彩、少女の仕草や表情の一瞬を切り取る巧みな視点が、それを可能にしている。「絵画でありながら、そこにいる」と思わせるような魅力が、ルノワールの少女画には宿っている。

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