
- 邦題:髪をほどいた横たわる裸婦
- 作者:アメデオ・モディリアーニ
- 制作:1917年
- 寸法:60×92.2cm
- 技法:油彩,カンヴァス
- 所蔵:大阪中之島美術館
"モンパルナスの灯"こと、ユダヤ系イタリア人のアメデオ・モディリアーニ。
日本が所有する唯一のモディリアーニの裸婦画。大阪中之島美術館が所蔵し、1989年に19億3000万円で購入(当時はモディリアーニの最高額は10億円)。大阪市の税金を使ったので市民から猛反発にあったが、現在ではモディリアーニの完全な裸婦画は100億円以上するため、安い買い物だったと言える。
絵のモチーフは、ジョルジョーネの《眠れるヴィーナス》と思われるが、眼も開き、左脚も立てている点で、モディリアーニのほうが構図も色も上である。ミケランジェロに憧れ、彫刻家になるのが夢だったモディリアーニだったからこその肉感。
絵画レビュー

モディアーニの最高傑作のひとつ。焼いた土のようなテラコッタ色の身体は、地の奥で焼かれたように火照っている。太陽のような肌と対照の、夜の漆黒のロングヘアとブラックダイヤモンドの瞳。「こっちへいらっしゃい」と誘う右手、隠しているようで見せようとしている左手。そして左脚を立て、そこに踏み込むべきか否かを試している。
妊婦のように腹を膨らませることで陰部に視線を向かせる。しかし、モデルは強いオーラを放っている。体に触れると火傷する炎力。指一本ふれさせない。私は絵のモデルだ。娼婦ではない。私はクレオパトラだというメッセージを発している。
それを可能にしているのが、トーテムポールのように細長い顔。古代エジプトの女王を思わせる他の画家にはない、快楽的な"支配感"。
ここは神殿であり、玉座であり、祭壇である。
もうひとつのレビュー:線一本で体温を上げる
画面に来るのは、赤土色の肌の“熱”。レンガ色の背景が暖炉の火で、ターコイズの枕が冷やした氷。そこに横たわる曲線は、一本の旋律みたいに画面を斜めに滑っていく。
モディリアーニの武器は、削るように鋭い輪郭線だ。石彫をやっていた人らしく、色を盛るより輪郭で彫り出す。体はふくらみ、影は最小限、余分な情報は切り捨て。だから目線は迷わない。アーモンド形の瞳がこちらを射抜き、余裕の微笑みで「見られること」を主導権ごと引き受ける。
手の配置が賢い。官能の中心にそっと置かれた右手は、招きと警備のあいだ。近づけそうで近づけない“境界線”を、一本の手首が描いている。露骨じゃないのに、温度だけが上がる。
構図はシンプルでもリズムは複雑だ。肩の直線、腰の渦、脚のカーブ、S字が連鎖して、目が画面を往復する。右下の白いカラフェが、赤と青の間に置かれた休符みたいに、全体の調子を整える。
この裸婦は、挑発よりも“余白の威力”で勝っている。装飾も物語も最小限。残ったのは、線、色、視線だけ。結果、絵そのものがひとつの身体になった。短い生の画家が発明した、最短距離の官能。
「見られることを楽しむ彼女」と「見ることを学ぶ私たち」。そのあいだに、一本の線が通電している。
《髪をほどいた横たわる裸婦》を所蔵する美術館
モディリアーニが描いた横たわる裸婦画
青いクッションの裸婦

- 制作:1917年
- 寸法:65.4 cm × 100.9 cm
- 技法:油彩,リネン
- 所蔵:ワシントン・ナショナル・ギャラリー
美術商に依頼されて描いた一枚。モディリアーニがパリで個展を開いた際、警察が猥褻だと踏み込んだ伝説の一枚。挑発的な笑み、左手、細顔、陰毛、巨乳。まさに、裸婦画のロールモデル。紅一点ならぬ、画面に差し込まれた「青一点」が、神々しさすら漂わせる。
赤い裸婦

- 制作:1917年
- 寸法:92×60cm
- 所蔵:個人蔵
瞳がないモディリアーニの十八番。曲線の柔らかいポーズではなく、ピンと張った堂々たるポーズ。陰毛、脇毛、黒髪、黒い眼が、赤と黒の力強さを強調する。
肩越しに見る裸婦

- 制作:1917年
- 所蔵:不明
モディリアーニに珍しいお尻を見せる後背位の裸婦画。ドミニク・アングルの《横たわるオダリスク》を意識している。足の組み方、お尻のサイズが絶妙で、映画『スターリン・グラード』のレイチェル・ワイズを彷彿とさせる。
背中を見せて横たわる裸婦

- 制作:1917年
- 寸法:92×60cm
- 所蔵:バーンズ・コレクション
瞳がないモディリアーニの代名詞。美しい顔立ちではないが、流線型のスレンダーな体が画面を支配する。瞳を描かないことで、身体そのものの存在感が倍増している。

- 制作:1917年
- 寸法:92×60cm
- 所蔵:シュトゥットガルト州立絵画館
モディリアーニのヌードは伝統的な裸婦画のポーズを踏襲している。その構図には緻密な仕掛けが潜む。
- 右の乳房が正面を向く
- 左の乳房は一部だけ見せる
- 腰を鑑賞者のほうに捻る
- 足を画面からはみ出す
基本的には横たわる側位の構図。この構図によって、胸と女性器が観る者にぐっと迫ってくる。体をはみ出させることで拡大感と臨場感を生み出し、鑑賞者を作品に引き込む。これらは、ストリップ劇場の「かぶりつき効果」であり、迫力のあるダイナミックなエロスを体現している。
モディリアーニに逢える日本の美術館
アサヒグループ大山崎山荘美術館(京都)

《少女の肖像(ジャンヌ・ユゲット)》1918年
長い首の線は感情の縦軸であり、身体の奥に秘められた思いが、上へ上へと伸びていく。流線のような身体のフォルムは、静かな可愛らしさ、やわらかな気配、愛おしさ。丸みを帯びた手の形や、わずかに傾いた頭の角度までもが、その愛おしさを語っている。モディリアーニは、少女の「性格」を描いたのではなく、「心の温度」を描いた。
大原美術館(岡山)

モディリアーニの奥様。ニットのセーター。女性は腕を組む。眼はエメラルド。平凡であり非凡であるが、バランスがいい。モディリアーニに調和はふさわしくないが、これは女性の生命力が伝わる。それは手を描いているからだ。ては女性の温もり、魂。
ポーラ美術館(神奈川)

《ルネ》1917年
キスリングの妻・モネの肖像画。スーツとネクタイにおかっぱ頭が粋。瞳はエメラルド。その宝石に負けない唇の微笑み。やはり女性は唇なのだ。

他にも二点を展示。《婦人像》と、モディリアーニのお気に入りモデル《ルニア・チェホウスカ》の肖像画。
松岡美術館(東京)

あえて人間の中で最も魔力の宿る眼を描かなかったモディリアーニ。「描かないことを描く」表現は、写真はもちろん、映画でも音楽でもできないタブローの力。
ヤマザキマザック美術館(愛知)

モディリアーニと親しかったフランス人医師の肖像画。モディリアーニの作品を買い続けた。細長くスマートに描くことで聡明さを増している。
ひろしま美術館(広島)

なんでもない男は彫像のように描いたほうがいい。眼を描かないほうがいい。デフォルメ、引き算によって魅力を引き出す肖像画。
モディリアーニを描いた傑作映画
裸婦画の傑作たち
日本のおすすめ美術館
東京のおすすめ美術館
妄想ミュージアム『エヴェレスト美術館』