アートの聖書

美術館巡りの日々を告白。美術より美術館のファン。

新宿タブロー:SOMPO美術館

新宿タブロー:SOMPO美術館

2025年の秋、美術に関する書籍を出すことになった。何枚もの絵画が〈あるかたち〉で登場する。難産を乗り越え、この世に産み落とした絵描きたちへの敬意を忘れてはいけない。はじめに現場ありき。これから1年間で30以上の美術館を巡る。第一弾は、此処から始めたかった。

SOMPO美術館の歴史

藤田嗣治 7つの情熱・SOMPO美術館

仕事場から歩いて1分半。毎朝この美術館の前を通るとき、レプリカの絵画に挨拶をする。毎日「おはよう」というのは3人。なか卯のスタッフのお姉さん、常連のおじいちゃん、そして、ゴッホ《ひまわり》

画像引用:SOMPO美術館

初めて来たのは2018年。『ターナー風景の詩』の企画展。イギリスの画家ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの個展で、当時は「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」という名前。ゴッホ《ひまわり》、ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》、セザンヌ《りんごとナプキン》の3枚が並んでいた。

画像

2020年4月から「SOMPO美術館」に変更。誕生は1976年7月。洋画家の東郷青児が協力し、損保ジャパンが本社ビル42階に「東郷青児美術館」を開館した。その名の通り、東郷青児の作品が中心の美術館。今もロゴは1929年に東郷青児が描いた《超現実派の散歩》

美術館が有名になったのは1987年。ゴッホの《ひまわり》を約58億円で購入してから。今では《ひまわり》がある美術館として有名で、東郷青児の作品を知らない訪問者のほうが多い。
SOMPO美術館「FACE展2025」
SOMPO美術館の外観は東郷青児の作品にインスピレーションを得たデザイン。アカデミックな雰囲気がある。

SOMPO美術館の中

画像

しかし、中は天井の木の温もりが迎えてくれる。新宿という街柄、いつも混んでいるが気軽に入りやすい。

画像

そもそも美術館なんてものは月曜定休日。床屋と同じだ。「髪を切りに行くついでに絵でも観るか」っていうくらいが丁度いい。コンビニに行く感覚で美術館に行くようになって欲しい。

画像

美術館はだだっ広い迷宮のようなミュージアムもあるが、SOMPO美術館は5階から3階まで下山するシステム。

一部屋のスペースはゆったりと広く、子どもが迷子になる心配はない。

収蔵作品

 

東郷青児《超現実派の散歩》

東郷青児《超現実派の散歩》

1929年作。SOMPO美術館のロゴになっている一枚。常に展示されておらず、普段は日本中を旅するか倉庫で眠っている。三重のシュールレアリスム展で観たときは良いと思えなかった。しかし、新宿で観ると印象が一変する。人工的な青。それが都会の空に似合っている。月を風船かブーメランのように遊ぶ。浮遊感と都会の重力を同時に感じる。空に迷い、空に彷徨い、空に遊ぶ。そうやって生きていく。

東郷青児《望郷》

東郷青児《望郷》

1959年。チョコレートのように溶けてしまいそうな女性。いや、男を溶かす。故郷を想っているようには見えない。故郷を捨て、新しい故郷を見つけた陶酔に溢れている。きっと、この女性は気づいたのだ。故郷はどこかの場所を指すのではなく、心の中にあると。それはパリかもしれない。都会かもしれない。田舎かもしれない。いや、この世でないかもしれない。自らの心と体を溶かし、故郷と一体になっていく。こんな地味な服を着て綺麗な顔をして、女は魔性というファッションを生きる。男は逆立ちしても女には敵わないと痛感させられる。

東郷青児《子供》

東郷青児《子供》1960年、SOMPO美術館

1960年

眼の不気味さ、下半身。ズボンを履いていないように見える。裸眼と裸身。何かに怯え、何かを訴え、何かと戦っている。ポケットから剥き出しのパンは心の剣。

両手は祈りであり、何かを探しているように見える。この子供は、何かを失った直後、あるいは失ったことに気づき始めた瞬間。その喪失に言葉が追いつかない。手が、その感情を捜索している。思い出は、いつも指先に宿る。記憶の裂け目をなぞるように。東郷青児は、愛情と冷徹の両眼で子どもを射抜いている。

ゴッホ《ひまわり》

新宿タブロー:SOMPO美術館

SOMPO美術館の4番バッターにしてエース《ひまわり》。レプリカもいいが、やはり本物は生命力が桁違い。ガラス越しになってしまうが、絵画というより彫刻のような力強さに満ちている。野球の4番バッター。他の展示に満足しなくても、この一枚だけでいいと思える。そんなホームラン力。世界に7点ある《ひまわり》の中でも最高傑作。毎日でも逢いに来たい。逢いに来てほしい。

ガラスケースから解放したときのパワーは凄まじい。できれば月に1回は外に出す日を設けて欲しいところ。

ポール・セザンヌ《りんごとナプキン》

ポール・セザンヌ《りんごとナプキン》

1879年〜1880年。かつてはゴッホ《ひまわり》とゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》の絵画とともに並んで展示されていた。傾いているのに転がらない、重力を逸脱したセザンヌの基本中の基本。ポーラ美術館にある一枚も凄いので観てほしい。

ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》

ポール・ゴーギャン《アリスカンの並木路、アルル》

三役揃い踏み。1888年、アルルで描いた一枚。ゴーギャンの赤は、炎でも情熱でも郷愁でもなく「血」の匂いがする。カンヴァスを血で染める強さがある。

美術館メシ:ミュージアムカフェ《Café Du Musée》

画像

5階から3階まで展示物を見たあとは2階のミュージアムショップで図録やポスターなどグッズを買い、ひと息つきにミュージアムカフェ《Café Du Musée》

画像

絵画と別れたあと、惜別を癒す珈琲とレモンケーキ、フルーツタルト。木の温もり、モード学園タワーに挟まれる。これで750円。

画像

時間という今しかないアート、体験という世界にひとつだけのアート。年間パスポート5000円を買った。仕事の昼休憩にフラッと抜け出し、息抜きに来る。喧騒から逃れられない新宿のオアシス。此処より永遠に。

SOMPO美術館

  • 開館:1976年6月
  • 住所:東京都新宿区西新宿1丁目26番1号
  • 設計:大成建設株式会社一級建築士事務所
  • 所蔵:約630点
  • 目玉:ゴッホ《ひまわり》
  • メシ:Café Du Musée

日本の美術館ランキング

東京の美術館ランキング

ゴッホを描いた傑作映画