「エコール・ド・パリ(巴里派)」「 パントル・ナイーフ(素朴派)」「キュビズム(立体派)など、西洋アートには素晴らしきキャッチコピーが多い。いずれもパリが発信源となっており、そのパリを麗しく表したのが「 ベル・エポック(美しき時代)」である。
ベル・エポックとは
ベル・エポック(Belle Époque)とは「美しき時代」の意味。19世紀末から1914年頃までのパリが芸術的にもっとも華やいだ時代や文化を表す。アートだけでなくマルセル・プルースト『失われた時を求めて』などの小説なども含まれる。
ベル・エポックのアート革命
ベル・エポックはパリのモンマルトルを中心に芽生えていった芸術運動であり、その背景にはナポレオン3世が進めた都市整備事業(パリ大改造)がある。それまでの印象派は自然や素朴な日常風景を捉えた絵画が多く、それらはカンヴァスに油彩画として描かれた。ベル・エポックの題材となったものは、1881年に設立された「ル・シャ・ノワール(黒猫)」や1889年に誕生した「ムーラン・ルージュ」を代表するキャバレーやダンスホール、演劇、カフェなど近代化の象徴。
ロートレックを代表する作品は、絵画という静寂に喧騒をもたらした。そして、カンヴァスではなくポスターとして描かれ、街の至るところに散らばるパブリック・アートが中心。ベル・エポックによって、カンヴァスという重力からポスターという無重力にアートが昇華し、美術館に来る一部の人間ではなく、大衆にアートが普及していった。
美術館を飛び出し、「ポスターという美術館」を生み出した。非日常だったアートを日常のアートに昇華したのがベル・エポックである。手軽に、身近に、大衆に広まっていったことで、「芸術の檻」からアートが解放されるようになった。それこそが、「美しき時代」の本当の意味である。
パナソニック汐留美術館
パナソニック汐留美術館はエレクトリックワークス社が運営する私立美術館。汐留という名前が付いているが、最寄り駅は汐留駅ではなく新橋駅。2003年4月の開館でジョルジュ・ルオーの油彩を中心に191点を所蔵する。残念ながら全作品はもちろん、館内も撮影禁止。アートを大衆に解放したベル・エポック展を開催する美術館とは思えない鎖国ぶり。まだ美術メディアの特権階級にだけアートを開放する風習が残っている。天井は低く。ミュージアムというよりギャラリーに近い。残念ながらルオーの作品の多くはガラスケース内に幽閉され、光が反射して絵画とは対話しにくい。
2024年10月5日(土)〜 12月15日(日)まで開催された「ベル・エポック―美しき時代」の中で素晴らしかったのは宇宙という暗幕の中で踊るアンリ・ソム《扇を持った女性》1895年頃と、エミール・ガレの《蝶文栓付瓶》。ガレの作品は正面ではなく、後ろから見たほうが力強い。頼もしい背中がある。人間力は正面ではなく背中に宿るように、ガレの真価は後ろから見ないとわからない。
パナソニック汐留美術館の場所