「カナレットとヴェネツィアの輝き」が2024年10月12日から 12月28日まで新宿のSOMPO美術館で開催。18世紀のヴェネツィアの風景画を中心に約60点を展示。そのうちカナレットの作品は約20点。この美術展は静岡から始まり、新宿、京都、山口を巡回する。
- 静岡県立美術館:7月27日~9月29日
- SOMPO美術館:10月12日~12月28日
- 京都文化博物館:2月15日~4月13日
- 山口県立美術館:4月24日~6月22日
その男カナレットにつき
カナレットはイタリアのヴェネツィアに生まれた画家で、本名ジョヴァンニ・アントーニオ・カナール。写実的でポストカードのようなパノラマ風のヴェドゥータ(都市景観画)を描いた。日本では有名ではないが、71年の生涯でフェルメールを彷彿とさせる傑作を何枚か残している。
今回のカナレット展では、カメラの祖先である「カメラ・オブスキュラ」を展示。カナレットやフェルメールが景観を写し取って構図を決める際に使った。1800年頃のカメラ・オブスキュラのデモ機で、カメラの祖先を体験できる。
カナレットとヴェネツィアの輝き
5階の第1章はカナレット以前のヴェネツィアの絵画から始まる。撮影禁止が多く、その基準は謎に包まれている。カナレットと同じくヴェネツィア出身の画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロの作品が何枚かあるが、それも凄い作品はない。
スコットランド国立美術館の所蔵。
東京富士美術館の所蔵。7月に訪ねたとき無いのはカナレット展のために静岡に旅行していた。
イギリスのボウズ美術館の所蔵。ヴェネツィアのボート競漕「レガッタ」を描いたもの。実物は巨大で今回の来日作品では最も大きい。この作品はあとで語る。
円熟の頃に描かれた絵でヴェネツィアではロンドン。
東京富士美術館の所蔵。ローマ。
4階、3階はカナレット以外の作品が多い。撮影禁止だが、ジェームズ・マクニール・ホイッスラー、ウジェーヌ・ブーダンといった有名画家もいる。
他に良かったのがカナレットの弟子とされるウィリアム・ジェイムズ。師匠のタッチを踏襲しつつ、空と地上を2分割し、バランスがいい。匿名でポストカードを販売したら最も売れるだろう。
モネが描いたヴェネツィアの運河。ポーラ美術館の所蔵。モネの中ではイマイチだが絵葉書から脱却している。
シニャックが描くヴェニス。来月に行く宮崎県立美術館の所蔵。
来日しなかったカナレットのヴェドゥータ(都市景観画)の傑作。ヒューストン美術館の所蔵。フェルメールの《デルフトの眺望》を思い出す。その理由は空である。美術評論家は「当時は空に力を入れて描いていない」と唱えるが、何を見てるのか。だから美術メディアなんて不要なのだ。風景画家が描きたいのは人でも建物でも水でもなくヴェネチアの空。他は仕事として丁寧に描き、空を描くとき芸術家としての筆が踊る。風景画家は空を狩るハンターである。空に真実が宿る。空は「くう」。空白。そこには無限が宿る。
こちらもカナレットの最高傑作の一つ。ヴェドゥータ(都市景観画)ではなく、室内画も凄い。
今回の企画展で最高の一枚。ヴェネツィアのボートレース。競艇の場面。立ち上る雲を戦いの狼煙のように描きスケール感を出している。観客はエキストラのようだが、エキストラではない。スポーツを盛り上げる重要人物であり主役たち。カナレットは建物も人物も一切の手を抜いていない。写真でも映像でもなく一枚の絵にすることでスポーツをフィクション化する。事実は風化するがフィクションに寿命はない。神話はフィクションにしか宿らない。ヴェネツィアのフィールド・オブ・ドリームス。
SOMPO美術館