アートの聖書

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ゴッホ《ブルジョワとしての自画像》〜冷たい壁に閉じ込められた、青い溶岩

ゴッホ《ブルジョワとしての自画像》

  • 英題:Self-Portrait
  • 作者:ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
  • 制作:1​​887年夏
  • 寸法:19cm×14.1cm
  • 技法:油彩、厚紙
  • 所蔵:ゴッホ美術館(オランダ)

ゴッホの中でも最小サイズの自画像のひとつ。カンヴァスではなく、厚紙に描かれているが、上品なスーツとフェルト帽を身に着けた、立派なブルジョワとして描いている。

パステル調のグレーブルーの色調で、ゴッホにしては珍し色。本人の眼は緑色だったが、グレーブルーで描いた。

絵画レビュー

この自画像、色が薄い。薄いのに、弱くない。むしろ、全体が灰色と淡い青に包まれているせいで、ゴッホの目だけが異様に強く見える。

帽子、上着、背景。すべてがくすんだ寒色に沈んでいる。普通ならぼんやりして終わりそうな配色だが、この絵はそこで終わらない。顔の中心にある赤い髭と、青い目が、画面の中で小さく火花のように残る。

背景は冷たい。服も冷たい。でも、顔だけがまだ熱を持っている。

構図はとてもシンプルだ。胸から上の半身像で、正面に近い角度からこちらを見ている。ポーズに動きはない。そのぶん視線が逃げない。

帽子のつばが、額に影を落としている。顔の上半分に少し暗さを作り、目の鋭さをさらに引き立てている。青い目は明るいのに、どこか警戒している。

「簡単には入ってくるな」

輪郭線の使い方も面白い。上着の縁に、強い青い線が走っている。この青が、かなり大胆だ。自然な影というより、ほとんどデザインの線である。この線があることで、淡い灰色の服が背景に溶けず、人物の形がきゅっと締まる。普通なら黒で締めるところを、青で締める。ゴッホという火山から流れる青い溶岩のようである。

背景には、短くうねるような筆跡が残っている。単なる無地ではなく、空気がゆっくり動いているように見える。服の部分も、なめらかに塗られていない。灰色やピンク、薄紫のタッチが重なり、布というより、人物の周りに漂う気分まで描いているようだ。

特に顔は、かなり細かく色が入っている。肌色一色ではない。黄色、赤、緑、青みの影が混ざっている。頬はこけ、鼻筋は硬く、口元は締まっている。きれいな肖像画ではなく、疲れた人間の皮膚として描かれている。

青い目が冷たく刺し、赤い髭が低く燃える。冷たい視線と、まだ消えない熱。その両方が顔の中にある。白っぽい帽子は、軽やかに見えるはずなのに、妙に重い。つばの形が顔を囲み、ゴッホを画面の中に閉じ込めているようにも見える。外出着を着ているのに、開放感はない。

外へ出る準備をしているのに、内側から動けない人のようだ。

この自画像には、華やかさがない。かといって、真っ暗な絶望でもない。淡く、冷たく、乾いている。その中で、目と髭だけが生き残っている。

世界を見ている。自分を見ている。そして、こちらも見ている。

ゴッホはここで、自分を英雄にも悲劇の主人公にもしていない。ただ、淡い灰色の空気の中に、ひとりの画家として立っている。

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