アートの聖書

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ゴッホ《点描の自画像》〜神経まで見える、点描自画像のざわめく迫力

ゴッホ《点描画の自画像》

  • 英題:Self-Portrait
  • 作者:ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
  • 制作:1​​887年
  • 寸法:41 × 32.5 cm
  • 技法:油彩、画板
  • 所蔵:シカゴ美術館(アメリカ)

ゴッホが新印象派に影響を受けて描いた点描画の自画像。緑、青、赤、オレンジといった色の粒子で構成されている。

ゴッホは弟のテオに「私は大聖堂よりも人の目を描く方が好きだ」と手紙を送ったように、ゴッホの深い緑色の瞳と、その視線の強さが際立っている。

1886年5月に開催された第8回印象派展(最後の印象派展)で、ゴッホはジョルジュ・スーラの《グランド・ジャット島の日曜日》やポール・シニャックの点描作品に出逢い、色彩理論と分割筆触の可能性を痛感する。のちにシニャックやエミール・ベルナールとセーヌ川沿いのアニエール周辺で制作し、細かな短いタッチを並置する「分割主義風」の試みを自作に取り入れる。

ただし、ゴッホはスーラの厳密な科学性には従わず、補色の並置や輪郭の強調を残して感情の速度を優先した。アニエールの橋や河畔風景、カフェの看板などに、点描の効果とゴッホ特有のエネルギーがせめぎ合う画面が生まれる。

絵画レビュー

ゴッホ《点描画の自画像》

背景がただの背景ではない。点、点、点。青、赤、緑、オレンジの小さな色が、画面の奥でざわざわ震えている。

ゴッホの背後に、空気ではなく神経が広がっているみたいだ。

まず目に来るのは、顔。こちらを真正面から見ているわけではない。体は少し斜め、顔も少し振り向いている。だが視線だけは、かなり強く刺さる。怒っているようにも見える。疑っているようにも見える。もっと言えば、「何か言いたいなら言ってみろ」という顔だ。親しみやすい自画像ではない。でも、妙に近い。近いのに、簡単には入れてくれない。それがゴッホだ。

顔は赤、黄、緑、青の細かいタッチで作られている。肌色をそのまま塗っていない。頬には赤が入り、影には緑や青が差し込まれ、額には黄みのある光が乗る。普通ならバラバラになりそうな色が、少し離れるとちゃんと「顔」になる。

これは、肌を描いているというより、肌の中を流れる緊張を描いている。

髭の赤も強い。背景の青緑が冷たいから、赤い髭が画面の中心で燃える。その赤が服の中にも散っている。顔から服へ、服から背景へ、色が感染していく。自画像なのに、人物だけが独立していない。ゴッホの存在が、画面全体に広がっていく。

筆触が方向性を持っている。背景は細かな点描風のタッチで、空気を振動させている。一方、顔は短い線と面で骨格を作り、服は斜めや横のタッチでざらざらとした重さを出している。部分ごとに筆のリズムが違うのに、全体としてはひとつの緊張感にまとまっている。

輪郭線に頼らない。顔と背景、服と空間は、色の差と筆触の密度で分けられている。だから境界が少し揺れる。人物はそこに固定されているのに、周囲の空気は動いている。

「止まっているのに動いて見える」感じが、ゴッホの点描。背景の余白はあるのに、その余白がざわめいているから、人物の孤独が強調される。大きな事件はない。ただ男がこちらを見るだけ。でも背景の点が、心の中のノイズみたいに鳴っている。

黒っぽい上着は、布というより、炭火のようだ。暗い服なのに、内部で色がくすぶっている。ここにも「まだ消えていない」感じがある。

髪は逆立つように流れ、眉はきつく、口元は固い。表情はほとんど不機嫌。人に好かれるための顔ではない。自分をごまかさないための顔だ。

この絵のゴッホは、もう暗闇に沈んでいない。色の振動の中に立っている。

それは明るい幸福ではない。もっと不安定で、もっと鋭い覚醒だ。背景の点も、服の赤も、顔の緑も、全部がざわついている。目だけは逃げない。画面のすべてが揺れている中で、視線だけが杭のように打ち込まれている。

この自画像は、「私はこう見えます」という絵ではない。「私はいま、こう燃えている」という絵だ。

静かな肖像画の顔をしているが、中身はかなり激しい。ゴッホはここで、自分の顔を描きながら、自分の神経の音まで描いてしまっている。

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