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レンブラント《ベレー帽と立襟の自画像》〜顔面一発勝負、沈黙のラスボス感、絵に宿る不屈の視線

レンブラント《ベレー帽と立襟の自画像》

  • 英題:Self-Portrait with Beret and Turned-Up Collar
  • 作者:レンブラント・ファン・レイン
  • 制作:1659年
  • 寸法:84.5 cm × 66 cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:ワシントン・ナショナル・ギャラリー

《ベレー帽と立襟の自画像》は、レンブラントが破産し、全財産を失った翌年に描かれた自画像。53歳ごろの作品である。

毛皮のマントをまとって座るレンブラントを描き、右上からの光でこけた頬や耳の傷を強調している。鏡を左に置く右利き用の構図ではなく、本作は右顔を強調する稀な自画像。

黒いベレー帽に地味な服、背景もほとんど闇で飾り気がない。なのに、目が合った瞬間、やたらと存在感がある。「お前、ちゃんと見てるか?」と問いかけられている。

技術的には、顔の描写が見事。絵の具を厚く盛り上げた頬や鼻は、光を受けて立体的に浮かび上がる。肌の赤み、しわの溝、目の濡れた光まで、筆跡が生々しさを作り出す。服や背景はあえてぼんやりと処理されていて、ディテールを描き込みすぎず、全ての視線を顔に集中させる。照明も編集も「顔アップ一発勝負」の構図。

人生の苦労を背負った表情で、画面からじっと睨んでくる。若い頃の「俺イケてる」セルフィーとはまったく違い、ここには「全部経験した俺がまだここにいる」という迫力がある。疲れと諦めがあるのに、同時に不屈の意地とユーモアもちらつく。この曖昧さこそ観客を惹きつける。

豪華な衣装も背景も捨てて、己の顔そのものを舞台にしたセルフポートレート。レンブラントは「人は最後、顔一つで勝負できる」とでも言うように、カンヴァスを真っ向勝負のステージに変えている。

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