
- 原題:Las Meninas(スペイン語)
- 作者:ディエゴ・ベラスケス
- 制作:1656年
- 寸法:318 cm × 276 cm
- 所蔵:プラド美術館(スペイン)
ベラスケスが亡くなる4年前、57歳で描いた一枚。ラス・メニーナスは「侍女」の意味。ベラスケスが王族に囲まれてアトリエで制作をしている場面を描いている。
タイトルの「女官たち」は、ベラスケス自身が付けたものではなく、19世紀になってから付けられたもの。しかし、この絵は「王女の肖像画」ではない点で的を射ている。王女を取り囲む日常、王宮の舞台裏の絵であり、視線を王女に集中させるのではなく、周囲に行くように仕掛けている。
絵画レビュー:ベラスケス《ラス・メニーナス》

絵画なのに奥行きがすごい。現実と虚構が淡く溶け合い、王宮ではなく、ひとつの劇場を創造している。絵筆によるVR・メタバースとも言える絵画。
左端のカンヴァスを途中で切っていることで、よりスケール感が増す。そして不自然なほどの大きさは画家の偉大さを強調している。
この絵は真ん中の王女マルガリータが主役ではない。この中で最も背が高い人物、ベラスケスが主役。王女の白、ベラスケスの黒。黒い孤独は白を飲み込む。
これは王女よりも画家のほうが上だと誇示した絵。王族を巻き込んだ最強の自画像である。
絵を観る者が最も気になるのは何か?それはカンヴァスに何が描かれているのか?王女や王様が何をしているかに興味はない。鑑賞者の疑問はベラスケスのカンヴァスに全集中する。「絵を描く者とは、世界を創る者だ」。そうベラスケスは描いている。
山田五郎が解説するベラスケス《ラス・メニーナス》
《ラス・メニーナス》は、絵にできること全部やっちゃった奇跡の一枚なんです。
絵の奥に鏡がありますよね。そこに映ってるのが、スペイン国王フェリペ4世とマリアナ王妃。普通なら「絵を見てる」はずの我々が、逆に「見られている」という、超ハイレベルな構図になってるわけ。
しかも、王族の集団肖像画って、普通はもっとかしこまったポーズで描かれるもんなんですが、ここでは王女を取り巻く日常のひとコマを切り取ってる。これがまた珍しい。
で、明暗の使い方がまたうまい。カラヴァッジオみたいにドラマチックにブワッ!とはやらない。フェルメールみたいに穏やかに静か〜にもいかない。ベラスケスは、その間を絶妙に攻めてるんです。
さらにね、登場人物は画面の下半分にぎゅっと収まってる。だから上半分に空間が広がって、実際よりも巨大な部屋に見える。しかも左にドーンと置かれたカンヴァスと、右の柱。普通なら画面がガツンと分断されるところを、自然に一体化させちゃってる。これがまたニクい。
あと、犬ね。この犬の寝そべり方が絶妙。なんでこんなところに犬が?って思うけど、実はこいつがいるおかげで、国王夫妻の存在が自然に生きるんです。
しかも、視線があっちこっちジグザグに誘導されるように計算されてて、奥行きが自然に生まれる。極めつけは、ピントの違い。それぞれの人物で微妙にフォーカスが違っていて、空間にものすごいリアリティを与えているんです。
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もう一つの絵画レビュー:視線の迷宮
まず、中央の金髪の王女が「主役です」と言い張る。だけど舞台の支配者は左の巨大なキャンバスの陰に立つ画家ベラスケスだ。彼は私たちをまっすぐ見つめ、筆を止める。ここはアトリエ、でも同時に王宮のサプライズ会見。奥の扉には従者が光に溶け、壁の鏡には国王夫妻のぼんやりした像。そう、いまこの瞬間、画家は“王と王妃を描いている”。そして彼らの視線の位置に私たちが立つ。観客なのに、モデルでもある。視線がぐるりと回って戻ってくるトリックだ。
右は侍女たち、道化、小人、犬。誰もが動き出す一秒前のポーズで止まり、部屋の空気がきしむ。床のタイルは奥へ吸い込み、扉の明かりは時間の出口みたいに開く。絵の中心は王女の白、でも物語の中心は鏡の灰色。華やかさとメタ構造の二段重ね、これが“絵画の中の映画”。
見るコツ
- 左の“画家の視線”→中央の王女→右の群像→奥の扉→壁の鏡の順に目を回遊させる。
- 鏡の像=国王夫妻。私たちの立ち位置が王夫妻側に置かれていると気づく。
- 光のリズム(窓→王女→扉)で奥行きが鳴る。暗部の黒は空間を締める低音。
- 犬のだるさや侍女の会話の切れ端まで“音”として想像する。停止画なのに音がするのが、この絵の快感だ。
ディエゴ・ベラスケスという画家

ディエゴ・ベラスケス(本名:ディエゴ・ロドリゲス・デ・シルバ・イ・ベラスケス)は1599年6月6日にスペイン南部セビリアに生まれた。
24歳でスペイン王フェリペ4世の宮廷画家に任命され、生涯にわたって宮廷に仕えた。1630年に国王の許可を得てイタリアを訪れ、古典芸術に触れ肖像画や宗教画、歴史画など幅広い分野で傑作を残す。
当時の画家としては異例の王族のコレクション管理や、建築監督、式典の運営など、多岐にわたる職務を兼任。宮廷の官僚機構の一翼を担う存在へと昇格する。
1651年、再びイタリアへ赴き、国王のために芸術品を収集する役目を果たした。このときも外交官としての役割を果たし、晩年には、「宮廷従者長(アポセンタドール・マヨール)」という高位の官職に就く。これは宮廷の運営や儀式を取り仕切る極めて重要な役職であり、純粋な画家としては異例の出世。
ベラスケスは、卓越した写実技法、光と影を巧みに操り、登場人物の存在感や空間の奥行きを極めて自然に表現した。写実を超えて、人間存在そのものに迫る深い洞察力を持っていたことも、作品を不朽のものにしている。1660年8月6日、61歳でマドリードにて没した。
ベラスケスの絵画

王女は、気品に満ち、凛とした佇まいを見せる。しかし、年齢に似合わぬ堂々とした姿からは、滅びの予感が漂っている。気丈に振る舞いながらも、心の奥に秘めた大きな悲しみが伝わってくる。ベラスケスの筆が捉えた宿命の儚さと、消えゆく美しさ。

ベラスケスの絵画で最も好きな一枚。酒を描いた絵画の最高峰。
《バッカスの勝利》も《酔っ払いたち》も、どちらのタイトルも素晴らしい。《ラス・メニーナス》と共にスペインのプラド美術館に飾られている。
左上の精霊サテュロスや真ん中のバッカスよりも酒を愉しんでいるのは誰か?最高の笑顔を浮かべているのは農夫である。神であろうが聖霊であろうが、楽しんだ者が強者であり勝者。己の身分と戦ったベラスケスだからこそ描ける最高の絵画。この絵のポスターを背景にワインを飲んでいる。
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