アートの聖書

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ピカソ《老いたギター弾き》〜青の時代は蒼く、今なお燃えている

ピカソ《老いたギター弾き》

  • 英題:The Old Guitarist
  • 別題:老ギタリスト
  • 作者:パブロ・ピカソ
  • 制作:1903–04年
  • 寸法:122.9 cm × 82.6 cm
  • 技法:油彩、パネル
  • 所蔵:シカゴ美術館(アメリカ)

ピカソの「青の時代」(Blue Period)の最高傑作。22歳頃の作品。《老ギタリスト》のタイトルでも呼ばれる。擦り切れた服の盲目の老人が、バルセロナの通りでギターを弾いている場面。X線の調査では、当初は老人の後ろに3人の人物が描かれていたが、ピカソが老人単体に修正した。

ジョージ・フレデリック・ワッツ《希望》1886年

ジョージ・フレデリック・ワッツ《希望》1886年

イギリスの画家ジョージ・フレデリック・ワッツの《希望》を参考に描かれた。

絵画レビュー:ピカソ《老いたギター弾き》

絵画レビュー:ピカソ《老いたギター弾き》

シカゴ美術館の展示

この老人は音楽を奏でているのか、それとも演奏が終わって静かに旅立つ瞬間なのか。真っ白な灰に燃え尽きた矢吹ジョーではなく、真っ青な灰になろうとする老人。戦う相手はもういない。拳の代わりに、ギターを握っている。

奏でていたのは絶望か希望か。それとも子守唄か、レクイエムか。

情熱ではなく、沈黙によって焼かれていく青の遺言。その翔魂の音楽は、きっとセレナーデ。これまでの人生で最も純粋な音だったに違いない。

愛する人を想い、愛した時間を想い、愛を抱えて天国へ向かう旋律の道しるべ。

音を抱くようにギターは最後まで離さない。三途の川を渡るお供、記憶が刻み込まれた一本の音の舟。

老人は孤独ではない。常にメロディと共に在る。沈黙は歌う。音を失ってなお、音に包まれている。老人の内側で、最も豊かに響き、そして満ちていく。

もうひとつのレビュー:青でできた祈り

最初に来るのは“音”ではなく“冷え”だ。全身を包むのは、ただただ青。夜の底、水底、冬の吐息。世界は音量を絞られ、色もひとつに減らされる。

そのなかで、たった一色だけが反逆する。

茶色のギター。焚き火のようにぬくい、小さな地球。老いた男はギターを弾いているのではない。ギターに抱かれている。骨ばった指はフレットをさまよい、肋骨は弦の共鳴箱みたいに震える。音符は描かれていないのに、骨がリズムを刻む。

長く伸びた手足、沈む眼窩。人の形はやせ細り、エル・グレコの聖人のように引き延ばされる。だがここにあるのは神秘より生活。路地の寒さ、空っぽのポケット、行き場のない夜。それでも男は背を丸め、ギターの丸みだけを信じる。

青は冷たさの色であり、祈りの色でもある。だからこの絵は悲嘆に沈みながら、どこか澄んでいる。ギターの低音は、パンほど腹を満たさない。けれど体温にはなる。音は灯りになり、男の輪郭をもう一度描き直してくれる。

見れば見るほど、構図はシンプルで容赦がない。色は二つ、主役は一つ。余計なものはすべて剥がされ、残ったのは「生き延びるための最小限」。その最小限が、キャンバスいっぱいに拡張して、こちらの胸郭まで鳴らす。

これは悲しい絵ではない。生き延びるための演奏を描いた絵だ。青が世界を凍らせても、一本のギターが人間を温め直す。

日本で観られるピカソの青の時代

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パブロ・ピカソ 《青い肩かけの女》1902年

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諸橋近代美術館

パブロ・ピカソ《貧しき食事》1904年

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ひろしま美術館

《酒場の二人の女》パブロ・ピカソ,1902年

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ポーラ美術館

パブロ・ピカソ《海辺の母子像》1902 年

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