アートの聖書

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アンリ・ルソー《詩人に霊感を与えるミューズ》〜花が編んだ愛と詩、極貧の名画、豊穣の庭

アンリ・ルソー《詩人に霊感を与えるミューズ》

  • 原題:La muse inspirant le poète
  • 作者:アンリ・ルソー
  • 制作:1909年
  • 寸法:146,2 × 96,9 cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:バーゼル美術館(スイス)

アンリ・ルソーが1909年に制作した女流画家マリー・ローランサンと詩人ギヨーム・アポリネールの二重肖像。スイス・バーゼルのバーゼル美術館に収蔵されている。

マリー・ローランサン《シェシア帽を被った女》	1938年

マリー・ローランサン《シェシア帽を被った女》 1938年

ふたりが出逢ったのは、1907年5月、『アヴィニョンの娘たち』を発表したピカソの個展。この絵の制作過程について、アポリネール自身が、1909年4月25日付の新聞『コメディア』に寄稿している。

私はルソーのアトリエで何度かポーズをとった。初日、まず彼は私の鼻、口、耳、額、手、そして全身を測った。そしてその寸法を、カンヴァスの大きさに合わせて縮小し、きわめて正確に画面へ写し取った。ポーズというものは実に退屈なものなので、私を気晴らしさせるために、ルソーは若き日の歌を私に歌ってくれた。

長く熟考されたこの絵は完成に向かっていた。ルソーは私のミューズの見事なドレスにひだをつけ終え、私の上着を黒に塗り上げた。ゴーギャンが比類ないと言い、マリー・ローランサンを喜ばせ、オトン・フリエスを絶望させるような、あの黒である。彼は、文学くささのない純然たる絵画の仕事を仕上げようとしていたが、私に敬意を表そうとして、ふと新しい、魅力的な考えを思いついた。前景に“詩人のナデシコ”の繊細な一列を描くという案である。

ルソーは亡くなる前年、極貧生活の中で描き、アポリネールは300フランで買い取った。現在の約21万円に相当する。

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原田マハは『楽園のカンヴァス』の中で、「ルソーの肖像画の中で、最も卓越した名作のひとつ」と称えている。

ロシアにある《詩人に霊感を与えるミューズ》

ロシアにある《詩人に霊感を与えるミューズ》

  • 制作:1909年
  • 寸法:131×97㎝
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:プーシキン美術館(ロシア)

ルソーが最初に描いた《詩人に霊感を与えるミューズ》は現在、ロシアのプーシキン美術館に所蔵されている。本来ならカーネーションを描くところ、うっかりルソーがニオイアラセイトウの花を描いてしまったので、描き直した。

絵画レビュー:アンリ・ルソー《詩人に霊感を与えるミューズ》

アンリ・ルソー《詩人に霊感を与えるミューズ》

痩せていたマリー・ローランサンを肝っ玉かあちゃんのように描いたルソー。オードリーの春日のトゥースのように意気揚々と右手を掲げ、それをアポリネールは優しい眼差しを注ぐ。こちらの口元にも自然と微笑が宿る。

足元の花々は小さな合唱団。風に揺れながら、二人のために透明な旋律を紡ぐ。緑は森の呼吸、衣装は都会の灯。野性と洗練が一枚の画面で並び、互いの影をやさしく温め合う。ここでは線も色も争わない。

測られた比率と、歌うような直感が、同じ舟に乗っている。

世界はまだ愛すに足る、と二人が言い、花がうなずき、緑がそれを保証する。絵の前に立つ我々は、少しだけ呼吸を合わせ、目に見えない調和の側に加わる。

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