アートの聖書

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アンリ・ルソー《馬を襲うジャガー》〜ジャングルの中のサイレントホラー

アンリ・ルソー《馬を襲うジャガー》

  • 英題:Jaguar Attacking a Horse
  • 作者:アンリ・ルソー
  • 制作:1910年
  • 寸法:116 x 90 cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:プーシキン美術館(ロシア)

アンリ・ルソーが亡くなった1910年に描いた、最晩年のジャングル画。

ルソーは、ジャングルと弱肉強食の世界をこよなく愛した。「ゴリラ vs. インディアン」「黒人 vs. ヒョウ」「虎 vs. バッファロー」など、動物たちの戦いを幾度も描いている。
その中でも、この《馬 vs. ジャガー》は少し特別な作品である。

熱帯の森の奥。陽光が葉の隙間を縫って落ちる、緑の海のような場所。主役は白馬とジャガーだが、周囲の植物たちがまるでプロレスの観客のように二匹を囲み、同時にその闘いごと飲み込もうとしているようにも見える。

喰われているはずの馬は、なぜか無表情。体は不自然に曲がり、ジャガーと抱き合ってダンスをしているようにも、交尾のようにも見える。凄惨なはずの場面なのに、どこか奇妙にロマンチックだ。

それにしても、この絵は怖くない。むしろ「ちょっと可愛い」と思ってしまう。ホラー映画でいえば、“静かな瞬間がいちばん怖い”タイプの作品。

血も叫び声もないのに、じっと見ていると、じわじわ不安になる。草むらの中から第三の刺客が飛び出してくる予感すらある。

ルソーのジャングルには、「子どものころに見た怖い絵本」のような質感がある。背景の青空は信じられないほど平和なのに、前景では弱肉強食が静かに進行している。

「怖い」と「かわいい」は紙一重。

ルソーはそのギリギリのスリルを、カンヴァスの中に閉じ込めた。草の密度、動物たちの無表情、そして整いすぎた構図。絵画版『となりのトトロ × サイコホラー』である。

よく見ると、ジャガーのたてがみも、獲物の斑点も、驚くほど丁寧に描かれている。怖いのに、もう一度見たくなる。そんな“やさしい悪夢”こそ、ルソーの魔法だ。

アンリ・ルソーがジャングル画を描いた理由

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