
- 原題:La Promenade, la femme à l'ombrelle
- 別題:散歩、日傘の女、日傘の女性、モネ夫人と息子
- 作者:クロード・モネ
- 制作:1875年
- 寸法:100 cm × 81 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:ワシントン・ナショナル・ギャラリー
モネが35歳のときに妻カミーユ、長男ジャンを描き、1876年の第2回印象派展に出品した一枚。ラファエロ《小椅子の聖母》と並び、母子像の最高傑作である。
風にたなびくベール、揺れる草、流れる雲。モネは静止した「像」ではなく、刻々と変化する自然のリズムを描き込んだ。
家族の肖像画というよりも「瞬間の光と空気」を捉えた風景画に近い。母子は、風の中で揺れる草花や光に透ける日傘と同等に「自然の一部」として描かれている。
母子の曖昧な表情が鑑賞者に「自分の母や子」を重ね合わせる余地を与える。他の母子像が「親子の絆」を正面から強調するのに対し、光の中に溶け込み、詩的で普遍的な存在感を帯びている。
モネは、低い位置から妻と子を仰ぎ見ており、母は青空を背に堂々と立ち、風に衣が舞い、逆光を受けて白い衣装は青く染まる。その姿は散歩風景を超え、母性への賛歌と感じる。多くの母子像が室内での親密さを描くのに対し、大自然を背景に、親子が「祝福される存在」として提示されている。
絵画レビュー:モネ《散歩、日傘をさす女》

数ある母子像の中で、モネの《散歩、日傘をさす女》がこれほど愛される理由はなんだろうか。それは筆致や色彩の鮮やかさ以上に、この絵が持つ構図の力にある。
野原の斜面に立つ妻カミーユは、日傘を軽やかに掲げ、スイングの瞬間を迎えるバッターに見える。その背後には、正面を向いて佇む息子ジャン。
妻は夫から投げられる「愛」というボールをフルスイングし、息子はその愛を確かに受け止めるキャッチャーとして描かれている。モネは、画家であり愛情を投げるピッチャー。二刀流。三人が織りなす光景は、家族の愛の試合であり、誰ひとり欠けても成立しない。空に流れる雲は時の舟のように過ぎていく。
そして、もうひとつの核心は「視点」にある。モネは低い位置から妻を見上げる。青空を背に堂々と立つその姿は、母であり、女性である存在を讃えている。
同じくタイトルに「、」を持つ《印象、日の出》が「時間の絵画」であったように、《散歩、日傘をさす女》は「愛の動画」と呼ぶべき作品。静止する肖像ではなく、光と風と心が同時に動き出す瞬間を、そのまま封じ込めている。
《散歩、日傘をさす女》は、静止する風景画でも肖像画でもなく、セピア色を超えた、家族のホームムービーなのである。
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《散歩、日傘をさす女》の別バージョン
《散歩》

- 制作:1875年
- 寸法:100 cm × 81 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:ポーラ美術館
《散歩、日傘をさす女》と同じ年、同じセーヌ河を挟んでアルジャントゥイユの対岸に位置するジュヌヴィリエでに描いた一枚。風景がパノラマになっている。
《牧草地で、アルジャントゥイユ 》(Dans la prairie - Argenteuil)

- 制作:1876年
- 寸法:60 x 82 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:個人蔵
《散歩、日傘をさす女》の翌年に描かれた一枚。息子のジャンはおらず、カミーユが草むらに寝そべる。1988年のオークションでは、ゴッホの《アイリス》《ひまわり》に次ぐ約30億円で落札された。
《日傘の女》


《日傘の女》1886年、オルセー美術館
《散歩、日傘をさす女》から11年後、モネが45歳のときに描いた一枚。カミーユは子宮がんの病にかか離、1879年9月5日に32歳で亡くなる。その7年後に2番目の妻アリスの娘シュザンヌをモデルにし、カミーユを偲んで描かれた。パリのオルセー美術館に所蔵されている。

この絵は、2026年に、アーティゾン美術館「モネ没後100年 クロード・モネ ー風景への問いかけ」で来日した。
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