アートの聖書

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ラファエロ《小椅子の聖母》〜家族の結界、愛のヒエラルキー、腕は盾となり、椅子は柱となる

ラファエロ《小椅子の聖母》

  • 原題:Madonna della Seggiola
  • 作者:ラファエロ・サンティ
  • 制作:1513年 - 1514年頃
  • 寸法:71 cm × 71 cm
  • 技法:油彩、板
  • 所蔵:ピッティ宮殿パラティーナ美術館(イタリア)

《小椅子の聖母》は、ルネサンスの画家ラファエロの30代に当たる「ローマ時代」に描かれた一枚。フィレンツェにあるピッティ宮殿パラティーナ美術館に所蔵されている。

絵のモデルは、ラファエロの恋人フォルナリーナ(「パン屋の娘」という意味で、恋人や愛人を指す)だといわれている。

また、三人の人物は、幼児キリスト、聖母マリア、幼児洗礼者聖ヨハネと考えられ、円の中に描かれる「トンド」と呼ばれる形態で描かれている。

ドミニク・アングル《ラファエロとフォルナリーナ》1814年

ドミニク・アングル《ラファエロとフォルナリーナ》1814年

新古典主義の画家ドミニク・アングルは《ラファエロとフォルナリーナ》の背景に、《小椅子の聖母》を描いている。

絵画レビュー:ラファエロ《小椅子の聖母》

ラファエロ《小椅子の聖母》

美術館での展示

ラファエロの最高傑作にして、母子を描いた絵画の中でも屈指の名作。《小椅子の聖母》は、美しいだけの聖母子像ではない。そこには、親密さと緊張、「家族」という存在の本質が、静かに、鋭く描かれている。

ラファエロは、モデルをあえて不自然な横向きからとらえている。

母と子は、斜に構えながら、まっすぐに鑑賞者を見つめている。その眼差しは、防御的で緊張を帯びた気配がある。大人の世界を拒絶している。

ラファエロ《小椅子の聖母》

あえて宗教的な視点を加えるとすれば、これはマリアと幼子イエスがすでに“受難”を予感している。世界に対して無防備ではいられない。だからこそ、その視線は硬く、閉ざされているの。

母の腕は異様なまでに力強く、ボディビルダーのような屈強さで、子どもを抱きしめている。その腕は、誰にも子どもを渡さないという意思の塊であり、“盾”になっている。

母子の身体がつくる構図は、柔らかな曲線で構成された完全な「円」。それは、他者の侵入を許さない“結界”でもある。

衣服の色使いにも、ラファエロのファッションデザイナーとしてのセンスが光る。

柄のある緑は、理性と落ち着きを。赤は、母の情熱と愛情を。そしてスカートの水色は、空気のような静けさと“息抜き”の余白。色の配色によって、画面に呼吸を与えている。

ラファエロが凄いのは、ここに第三者の存在、右端に描かれた少年の存在である。

母子の世界に近づきたくても入れず、静かに立っている。視線はどこか遠く、あるいは母を見つめながらも、それに甘えることはしない。
この年齢にして孤独を知っている。母の愛がすべての子に平等に注がれるわけではないことも、愛にはヒエラルキーがあることも悟っている。斜め上を見上げる眼差しには、希望とあきらめ、そして祈りのようなものが宿っている。

そして最後に、ラファエロがこの作品に忍ばせた「仕掛け」がある。

母の座る椅子、その取っ手の部分である。金色に輝き、異様なほど目立つ円柱状のこのパーツは、単なる椅子の装飾ではない。その形状は、勃起した男根であり、「支え」や「柱」としての象徴である。

家族を守る力強さ、母子を見守る“父性”の痕跡。この椅子の取っ手は、目に見えないもうひとつの存在、「大黒柱」としての父の力を、象徴的に示している。

ラファエロはこの一枚によって、「母と子」という閉じられた関係性を超え、「家族とは何か」という実態に深く切り込んでいる。

 

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