シネマの流星、アートの聖書

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言の葉の庭のプリマヴェーラ

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プリマヴェーラ(春)が深まる5月。藤棚が見たくて言の葉の庭を訪れた。4連休初日。雲ひとつない青空。お日柄もよく、雨を主人公にした映画とは真逆の世界が広がった。9時の開園前から行列。近所のスタバで買ったコーヒーを手にゲートオープンを待っている。

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物書きとして独立して半年。毎日アパートと新宿駅直結のコワーキングスペースを往復する生活。会社員時代は深夜や休日にオフィスにいると閑けさが包んでくれた。しかし、今は休みの日も喧騒から逃れることはできない。

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アパートで仕事ができればいいが、外で遊ばないと気が済まない幼少を過ごし、そのまま歳をとってしまった。40歳になった今でも1秒も自宅にいたくない。

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無駄なことに頭を悩ませる。365日連休のボヘミアン、そんなラプソディが増えてくる。

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日本庭園を前にすると、東屋のにおいがする。訪れるのは3度目。

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今日も、ひっそりと咲くように東屋はある。

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まだ誰も来ていない。あと数時間後には列ができるだろう。

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朝ごはんの前の食前食。雪野が持ってきたお菓子とお茶。

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言の葉の庭に人工的な甘みの極みであるチョコレートは合わない。そのズレは雪野そのものであり、ズレを味わうことで、自分自身を自覚する。そうやって雪野は見失いそうになる自分を抱きしめていた。

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劇中で読んでいたのは夏目漱石の『行人』だが、愛のぬけがらを抱擁していた雪野にはムンクが合う。

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本来なら藤棚が見える場所。

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5月が見頃と聞いていたが、掃除の男性スタッフに訊くと4月の中頃には終わったらしい。10年前と違って、東京は晩春を失ってしまった。桜が散ると、春の余韻に浸る暇もなく初夏がやってくる。

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見上げれば麗しい新緑の光が注ぎ込む。

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藤棚に逢いに、来年4月、今度は雨の日に来よう。もうすぐ梅雨が訪れる。言の葉の庭の季節がやってくる。