
- 作者:藤田嗣治
- 制作:1929年
- 寸法:62.0 x 43.0 cm
- 技法:水彩、墨、絹本
- 所蔵:ポーラ美術館(箱根)
パリ時代の藤田嗣治が描いた自画像。白いシャツをまとい、胡坐をかいて布を縫う姿は、座禅を組む僧侶のようである。針と糸を手に、布に意識を沈める眼差しは、外界から完全に切り離された内なる集中の世界を思わせる。
藤田にとって、物を描くときも、縫うときも、同じ精神の静けさがある。すべての創作は、自らを整え、心を鎮めるための行。つまり、禅に近い行為だったのだ。
画面には、ボタンや糸巻き、ハサミ、針山などの小物が細やかに描かれている。藤田はこうした小さな道具たちを愛し、その存在を丁寧にすくい取る。物を大切に扱う心は、美意識の核でもある。小物のひとつひとつが、宇宙のかけらのようなものだった。そこに宿る静寂を見つめることが、藤田嗣治の“禅”のかたちだったのだろう。
淡く澄んだ乳白色の肌、壁。線の一本一本にこもる緊張と静けさ。「外の世界」を消し、ひとりの人間が内側へ沈んでいく瞬間を描き出している。自分を飾ることなく、ただ今この瞬間の呼吸を描く。その状態こそ、藤田がたどり着いた創作の境地である。
裁縫という静かな日常のなかに、絵を描くのと同じ集中と慈しみを見いだした。藤田にとってアートとは、名声や技巧ではなく、心を澄ませるための“禅”だった。
沈黙を縫う、静けさを縫う、心を縫う。
針と糸を手にした藤田の姿は、筆を握る僧のようでもあり、自らの魂を繕う行者のようでもある。この《自画像》(1929年)は、藤田嗣治というひとりの画家が、アートを通して悟りに近づいた瞬間の静けさである。
空前絶後のアート本、登場!

藤田嗣治の最高傑作も登場!
美術館に行く前に読むと、芸術の見方が180度変わります。『アートは燃えているか、』は、図版なしで名画をめぐる“言葉の美術館”です。絵を観る天才が何を語るのか、その眼で確かめてください。
→ 書籍の詳細を見る [アートは燃えているか、]
藤田嗣治の自画像
藤田嗣治の代表作
ゴッホの画業と炎の伝説
ゴッホの画業と代表作
ピカソの画業と傑作絵画
フェルメールの画業と全作品解説
アンリ・ルソーの生涯と画業
クリムトの生涯と代表作
ジョルジュ・スーラの傑作絵画と画業
日本のおすすめ美術館
東京のおすすめ美術館
神奈川のおすすめ美術館
オランダおすすめ美術館
妄想ミュージアム『エヴェレスト美術館』