アートの聖書

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ゴッホ《髭のない自画像》〜青春の影を刻む93億円の孤独

ゴッホ《髭のない自画像》

  • 原題:Self-portrait without beard
  • 作者:ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
  • 制作:1889年9月
  • 寸法:65  × 54 cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:個人蔵

サン=レミの精神病院で療養していた時期に描かれた自画像で、同時期の《渦巻く青い背景の中の自画像》と、「ゴッホ最後の自画像」を巡って議論が分かれている。

母親への誕生日プレゼントとして贈った自画像で、1998年にニューヨークのオークションで当時、史上3番目の7150万ドル(93億円)で落札された。

背景は淡い灰緑に塗り込められ、奥行きは意図的に消されている。そのため視線はまっすぐに画家の顔へと引き寄せられる。赤褐色の肌の起伏は、傷や悩み、疲労を抱えた精神の痕跡を刻み込み、そこに青春映画の思春期の青年のような繊細さが重なる。

衣服は青紫の単調な調子でまとめられ、余計な主張を許さない。その控えめな色合いが逆に顔の陰影を強め、眼差しの奥に潜む感情を浮かび上がらせた。筆触は荒々しいが、色調は不思議なほど静まり返り、嵐のただ中にひととき訪れる静寂を思わせる。

そして眼差し。孤独と寂しさを宿しながらも、母に向けた慈しみの温もりを湛えている。しかもその眼は、母を恋しがる幼子のように切実で、痛々しいほど真っ直ぐだ。

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