
島根県立美術館は、1999年(平成11年)3月6日に開館。宍道湖畔という特別なロケーションに建ち、「水との調和」をテーマにしている。2022年6月1日にはリニューアルオープンを迎え、より洗練された空間へと生まれ変わった。

夕日の名所としても知られ、「日本の夕日百選」にも選ばれている。展示作品だけでなく、自然が織りなす光景そのものが、この美術館を特別な存在にしている。

コレクションは、3つの柱を中心に構成され、「日本近現代の絵画」「日本の版画」「西洋近現代絵画」。特に浮世絵は質・量ともに国内有数であり、定期的な展示替えが行われている。
島根県立美術館の魅力
アクセス

島根県立美術館は、JR松江駅から徒歩15分、市営バスで「県立美術館前」まで6分。市街地からのアクセスは良好で、美術館に近づくにつれて日常の喧騒から静けさへとフェードアウトしていく感覚が心地よい。

北側の大橋川や天神川を越えて松江大橋を渡る道中では、潮風が頬をなで、カモメの鳴き声が空に響く。

潮騒、潮風、潮香。海を感じながらワクワクを高め、美術館を目指す。

湖面には優雅に泳ぐ鴨たちの姿も見られる。

宍道湖の風景と一体となった建物が視界に入ったとき、アート体験はすでに始まっている。
外観

島根県立美術館の設計は、設計は建築家・菊竹清訓。江戸東京博物館や海老名サービスエリアを手がけたことで知られる。

建物全体が緩やかな曲線を描き、宍道湖の地形に寄り添うように設計されている。ガラスのカーテンウォールが光を取り込み、屋根のラインが自然と空に溶け込んでいく。建築そのものが風景の一部であり、「水の美術館」と呼ぶにふさわしい佇まい。
野外彫刻

素晴らしい美術館は野外彫刻から魅了してくれる。島根県立美術館も例外ではない。周辺には8つの屋外彫刻があり、そのうち6つが宍道湖岸に展示されている。
伊藤隆道《舞う・風・ひかり》は、光を受けて変化するステンレスの曲面。

因幡の白兎で有名な出雲。島根県立美術館を象徴するのが湖畔に立つ《宍道湖うさぎ》





宍道湖のさざ波、潮風、カモメの鳴き声。自然の音に耳を澄ましながら彫刻群を巡るこの時間もお勧め。アートを浴びながら入館してほしい。
内観

内観は開放感があり、大きな窓から宍道湖が一望できる。館内は天井が高く、自然光がふんだんに入る。

長方形のシンプルな構造の美術館なので、子どもも迷子にならなず、キッズコーナーもある。多くの子どもたちを連れてきてほしい。

館内の至るところに彫刻作品があり、その数が少なすぎず、多すぎず絶妙。

訪れた2025年7月3日は木曜日で、企画展がなくコレクション展のみ。観覧者は少なく、静寂に包まれていた。余白が多く、気持ちいい。

ミュージアムショップは、葛飾北斎が中心。

富嶽三十六景がプリントされたレモンスカッシュ、烏龍茶があり、訪れた日の日付や名前をプリントできる。記念に買ってもらいたい。
常設展示室

島根県立美術館は、1階が企画展示室、2階が常設展示室となっている。

常設展示室は1つのフロアに5つの部屋があり回廊する。ひろしま美術館と同じで、出ては入ってを繰り返す。自分の好きな箇所を周りやすく、美術館の理想型である。真ん中でロダンの彫刻が鎮座し、来館者を見守る。
第1展示室「水辺の展示室」
宍道湖の景観と調和するように建設された島根県立美術館を象徴するテーマの絵画。名画は展示されるに相応しい場所がある。
ギュスターブ・クールベ《波》

ノルマンディー地方のエトルタの海を描いたもの。クールベは30点以上の波の絵を描いており、山梨県立美術館にある《嵐の海》も大傑作。クールベが写実したのは、波の風景ではなく、海の力強さ。
クロード・モネ《アヴァルの門》

クールベを尊敬していたモネを横に並べる。原田マハは著書『Contact art : 原田マハの名画鑑賞術』で「一瞬が、一生だ。一瞬たりとも同じ時間はない。一瞬が一生であると感じながら生きていく、というメッセージを受け取った」と書いている。
ただ、この絵は少し鮮やかすぎる。もっとボヤかして印象的にしてもいい。
ラウル・デュフィ《ニースの窓辺》

クールベに匹敵する見事な一枚。赤、黄、緑、青、黒。子どもの塗り絵のようなワクワクがあり、真ん中の鏡で左右の景色を分断する。軽やかさと即興性が、南仏の陽光をそのまま画面に閉じ込めている。

《古港》というタイトルとは反対の印象。瑞々しく新鮮。『藤田嗣治 7つの情熱』で、藤田を凌駕していた岡鹿之助。これもすごい。レゴブロックのような点描。大部分は水。砂場で遊ぶ子どものような絵。模型のような愛らしさがある。




第二展示室は日本画家の作品。残念ながら、観たかった川合玉堂《鵜飼》はなし。松本竣介の作品もあったが、良かったのは藤田嗣治。
藤田嗣治《サーカスの人気者》

撮影禁止の作品だったので、ネットから拾ってきたもの。画像が悪い。絵画は傑作なので、ぜひ実物を見てほしい。動物たちが超ラブリー。かつて円山応挙などが描いた動物の柔らかさ、そこに西洋の気品が加わっている。藤田嗣治は、日本と西洋のハイブリッド。無双。毛並みや仕草が一匹一匹異なり、画面全体が小さな物語の集合体。軽やかな線と絶妙な余白が、愛らしさの中に確かな格を与えている。
北斎展示室

島根県立美術館が誇る北斎コレクション。約1,600点も所蔵し、そのうちの40点を展示している。
百物語 お岩さん
諸国名橋奇覧 飛越の堺つりはし
冨嶽三十六景 山下白雨
冨嶽三十六景で最も好きな「山下白雨」。家に版画を飾っている。富士山の力強さを最も捉えた絵画。
山頂の静けさと麓の激しい雷雨との対比が、神の山としての富士を際立たせる。静と動、明と暗。その劇的な構成に、北斎が凝縮されている。

展示室3は島根の伝統工芸。

艶やかな塗りと繊細な文様の八雲塗(やくもぬり)。小泉八雲ではなく、出雲の古歌「八雲立つ」から命名されたもの。

第4展示室が島根にゆかりのある写真家の作品。森山大道がなかったのが残念。
展望テラス
美術品を巡回したら展望テラスで一息。ここの彫刻は、触ってもOK。子どもたちも遊べる。
宍道湖の夕景が有名なので、次に訪れるときは夕暮れのミュージアムを楽しみたい。島根県立美術館は、風景に開かれた額縁である。
美術館メシ
レストラン「ラシヌ」

島根県美術館に来たら絶対に立ち寄ってほしいのが、フレンチ・レストラン「ラシヌ」
宍道湖を見渡す眺望に、スタッフの方が気さくで、接客に感動する。
冷製キャロットスープは、スイーツのような甘美なのに、千利休のような侘び寂びがある逸品。うさぎに関連した料理が麗しい。
RACINEプレート2500円。スズキのポワレと松江ポーク、茹で野菜、サラダ、すべてが絶品。
食後の珈琲には、レストランで販売している茶菓子をつけてくれた。これも美味しく、帰りに、実家へのお土産に3箱も買った。
レストランの手前にはテイクアウトメニュー。ここの店員さんも丁寧な接客。
うさぎソフトクリーム、宍道湖しじみ汁。日本屈指の美術館メシ。5本の指に入る。
次回は夕景を観たあと、ディナーを味わいたい。
島根県立美術館の概要

- 開館:1999年(平成11年)3月6日
- 住所:島根県松江市袖師町1−5
- 設計:菊竹清訓
- 所蔵:7,623点
- 目玉:クールベ《波》
- 撮影:OK
- メシ:レストラン「ラシヌ」
- アクセス:JR松江駅より徒歩15分、バス6分
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