
- 作者:藤田嗣治
- 制作:1929年
- 寸法:61.0×50.2 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:東京国立近代美術館
パリ時代の藤田嗣治が描いた最も有名な自画像。おかっぱ頭、丸渕メガネ、ちょび髭、絵筆、猫、乳白色の女性像など、藤田嗣治を象徴するものがすべて描かれており、自己紹介としての名刺の機能を果たしている。
藤田嗣治の視線が真っ直ぐにこちらを射抜いてくる。丸眼鏡におかっぱ頭、口をすぼめた表情は少しユーモラスで、気取っている。それでいて、青いシャツのシワや、机に置かれた筆や硯が生活感を漂わせていて、演出と素顔が同居している。
面白いのは、猫の存在だ。膝の上に乗っているのか、横からのぞきこんでいるのか、画家の表情よりも猫のまなざしのほうがずっと愛情深く、絵全体をやわらげている。猫がいることで、藤田嗣治も茶目っ気を帯びた存在に見えてくる。
背景の女性像は、夢の中の残像のよう。現実の自分と、憧れや理想、あるいは心に刻んだ記憶とが、同じ画面に並んでいる。そう考えると、この絵は自画像でありながら、画家の「内なる世界」を描いた作品にも思えてくる。
線は繊細で、色は薄く透けるように塗られている。透明感のある肌や布の質感は日本画の技法を思わせながら、モダンな人物像として立ち上がっている。その絶妙なバランスが、この絵に独特の品と温かさを与えている。
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