アートの聖書

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藤田嗣治《北平の力士》〜金剛のごとく、大地を踏みしめる

藤田嗣治《北平の力士》

  • 作者:藤田嗣治
  • 制作:1935年
  • 寸法:180.9 x 225.4 cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:平野政吉美術財団

1929年の世界恐慌の影響で旅に出た藤田嗣治が南米から北米への2年にわたる旅を終え、次に向かったのは中国だった。北京(当時の北平)で描いた横幅2メートルを超える巨大な集団肖像画である。

肉体の存在感と精神の気高さが見事に融合している。張りつめた筋肉、足元の砂の感触までが伝わってくる。色や線は繊細でありながら、眼差しの強さやポーズによる力感は圧倒的。金剛力士像のように、大地を踏みしめ、見る者をはね返す存在感を放っている。藤田は単に「強さ」を描くのではなく、肉体の内側に潜む精神の張り詰めた緊張まで描き出している。
それを支えているのは、画面構成の精妙さ。三人の力士がつくる三角形の構図は、祭壇のように中央の人物を中心に据え、周囲の観客を取り巻くように配置している。観客たちの視線や姿勢はさまざまで、驚き、敬意、好奇心、あるいは無関心が入り混じる。喧噪ではなく、熱と沈黙が同居する空間。

パリ時代の乳白色の裸婦像で見せた滑らかで官能的な肌の描写とは異なり、ここでは赤土を基調とした生々しい肉体が描かれる。一方で、人物たちを縁取る線や衣服の折れ、背景の梁や布などには、繊細さが息づいている。太く逞しい力士の身体を、細やかな線が包み込み、対照的な美をつくり出す。そのバランスこそ、藤田の真骨頂。力と優美、写実と抽象、東洋と西洋。それらが衝突するのではなく、見事に共鳴している。

《北平の力士》は、異国を描きながら普遍的人間の尊厳を讃える。金剛力士像のように立つ三人の男たちは、時を超えて鑑賞者を見返している。

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