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クリムト《女の三世代》〜金と闇のベッド、男根の檻に囚われ、生命を謳う女性たち

クリムト《女の三世代》

  • 英題:The Three Ages of Woman
  • 別題:女性の三世代、人生の三世代
  • 作者:グスタフ・クリムト
  • 制作:1905年
  • 寸法:180 x 180 cm
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 所蔵:ローマ国立近代美術館(イタリア)

《女の三世代》は1905年、クリムト43歳後頃に制作された油彩画。《接吻》(1907年)と同じ正方形の構図。黄金様式期の作品とは異なり金箔は使われていない。そのため、人間の肉体的な質感や陰影が重視され、現実味を帯びた描写である。

本作は現在、イタリア・ローマにある国立近代美術館(Galleria Nazionale d’Arte Moderna e Contemporanea)に収蔵され、1905年にベルリンで開催されたドイツ芸術家協会(Deutscher Kunstlerbund)の第2回展覧会で展示された。

母に抱かれ眠る幼い子ども、母の若々しい肉体、背後に立つ老女。「生」「成熟」「老い」を同時に一枚に収め、幼子は未来、母親は現在の盛り、老女は衰退の循環を暗示する。

母の柔らかな肉体は官能的であり、老女の衰えた肉体は、死の影を漂わせる。クリムトはこの二つを同じ画面に配置することで、愛と死、誕生と終焉という相反するものが表裏一体であることを示す。《女の三世代》は、単なる母子像以上の哲学的な作品にしている。絵のモデルは特定されていない。

一般的なクリムト《女の三世代》の解説

クリムトの《女の三世代》は、老女・若い母・幼子を一枚に描くことで「人生の始まりから終わりまで」を象徴的に示した作品である。

老女の身体は厳密で残酷なまでに描写されている。変形した手や浮き出た青い静脈はかぎ爪のように見え、張りを失った白髪や垂れ下がった髪、しわだらけの肌や骨ばった関節、膨れた腹部などが老いを強調する。左手で顔を覆い、うつむく姿は、時の流れや死を恐れ、悲嘆に沈む存在として描かれている。クリムトはこの姿に、美が避けられず失われていく残酷さを重ねている。

対照的に、若い母は幸福そうで、穏やかに幼子を抱いている。透き通るベールに官能的な模様が施され、身体は細身で白く、赤毛の髪が顔を縁取る。目を閉じた姿は安らぎと満足を示し、官能的でありながら静けさも漂わせる。幼子は母の胸に寄り添い、心音に包まれるように眠っており、母の身体と一体化しているように描かれている。ここには母性と生命の継承が象徴されている。

背景は黒を基調とし、部分的に金やブロンズが用いられているが、暗さが強調されている。老女の背後には暗く重い赤みのオーラが描かれ、死と衰退を示す。一方で、母と幼子の周囲は柔らかな色合いで包まれ、若さと誕生を強調している。背景を分割する一本の横線が、明暗の対比をより鮮明にしている。円形や螺旋、三角形の装飾モチーフは卵子や細胞を思わせ、生命の源や力を象徴する。黒い空間は静寂と死を示し、色彩と形の対比が「生と死」を一枚の画面に同居させている。

この作品はクリムトの黄金時代に制作されたが、金箔を使っていない点が特徴的である。光は絵具の重ねと筆致から立ち上がり、肌の温度感や血流、年齢差までが描き分けられる。老女の皮膚は冷たく沈み、母と幼子は温かく半透明に輝く。金箔が作り出す「神聖な場」を避け、観者を現実の肉体性に引き戻している。

さらに、装飾の役割も変化している。黄金様式では螺旋や幾何学が象徴そのものであったが、この作品では象徴は装飾から肉体へと移っている。母の滑らかな肌と老女の萎んだ皮膚、幼子の柔らかな身体、抱擁の曲線的なリズムと沈黙した姿勢が、記号に頼らず人生の循環と「エロスと死」を語っている。

《女の三世代》は、黄金時代の只中に位置しながら、装飾の快楽と人間存在の真実を架橋する転調の作品となっている。

絵画レビュー:クリムト《女の三世代》

クリムト《女の三世代》

《女の三世代》は「女の悦び」の連続体を、夜と金という二つの幕で包み込んだ祭壇画である。黒の帳と金の天蓋に守られたベッドという舞台設定の中で、クリムトは女性の身体を「消費の対象」ではなく「快と生成の源」として描く。

3人の女性を包み込む金色ものは、男性器のである。ペニスの内部に女性たちを閉じ込めている。そこは生命の源泉である。

左端の老女は、かつて男と関係を持ち、そして捨てられた存在だ。うつむく姿勢、顔を覆う手、変形した身体は、過去の愛と快楽の痕跡を抱えながら、忘れ去られる痛みを映し出す。彼女の肉体はもはや男の欲望の対象ではなく、存在そのものが過去へと退けられている。

中央の母は現在の愛人だ。幸福そうに幼子を抱いているが、その幸福は永遠ではない。官能的な美しさに包まれているものの、彼女の姿もまた「いま」という刹那にすぎない。やがて老女と同じく、欲望の流れに置き去りにされることが予感されている。

右端の幼子は未来の象徴である。無垢に見える姿も、やがて成長し、新たな愛人として男の欲望の対象となる。その未来を暗示することで、クリムトは人間関係における「繰り返される欲望の循環」を描き出している。

同時に、男という存在は、所詮、男根にしか価値がない。女性のように体全体で人生を表現する生きものと違い、男はペニスでしか人生を語れない。これはクリムトが描いた女性讃歌である。

 

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