
アドルフ・ヒトラーは故郷の近く、オーストリアのリンツに「総統美術館」を建設する計画をしていた。欧州各地で略奪した数万点に及ぶ美術品を展示する大規模ミュージアムである。
略奪という手段の是非はともかく、ぶっ飛んだ頭の怪物が生み出す常軌を逸した「総統美術館」は見てみたかった。
では、あなたが「神の視点」で自由に美術館を創るとしたら?場所は月でも火星でもOK。展示物は、失われた幻の絵画や、実際に存在しない絵画でもいい。
想像力の限界を超えて、あなたの“妄想ミュージアム”を、コメント欄で教えて欲しい。
エヴェレスト美術館への道
名称・アクセス

美術館の名前は「エヴェレスト美術館」
唯一無二、世界最高峰の絵画が集まるミュージアムという意味を込めている。
建物は、ブリューゲルが描いた《バベルの塔》を再現。上りのエレベーターはなく、ブルース・リーの『死亡遊戯』のように、徐々に上の階に登っていく。
24時間営業、年中無休。企画展はなし。常設展示のみ。展示の入れ替えもなし。動かざることエヴェレストの如し。選ばれし47人の画家、世界最高峰の絵画101点が集結する。

場所はチベットの標高5000メートル、エヴェレストの北壁を望むヒマラヤの山奥に建設。マグリットの《王様の美術館》のように簡単には行けない。
テラスからは、朝日に包まれるエヴェレスト、夕焼けに染まるエヴェレスト、地上で見られない明るさのスーパームーンが、ナイト・ミュージアムで観られる。

近くには宿泊施設も建設。テント泊するもよし。
ただし、アクセスは不便極まりない。訪問者は、高山病予防のために、高所順応を行ってもらう。チベットの首都ラサで2泊、標高3900mのシガチェで1泊、標高4200mのティンリで1泊してから、バスで標高5000mの美術館に上がる。4泊5日の高所順応を経て、体調に異常がない者だけが、エヴェレスト美術館に足を踏み入れられる。
野外彫刻

エヴェレスト美術館の玄関では、ミケランジェロ《ダビデ像》と《ミロのヴィーナス》がお出迎え。お触り厳禁。鑑賞時間は10分の猶予がある。
門をくぐった入り口には、ブリューゲルの《バベルの塔》の絵画を飾る。
受付(エントランス)

受付はラスコー洞窟、アルタミラ洞窟の壁画に囲まれた場所。ここで事前予約したQRコードをスキャンし、展示室に進む。料金は無料。そう簡単に来られる場所ではないので、お金は取らない。
時空の美術空間
標高5000メートル、美術タワー『エヴェレスト美術館』は、地上の時空から切り離された別世界。鑑賞者は13世紀から20世紀まで、絵画の歴史を縦に巡りながら、塔の最上階へと登っていく。
各階はひとつの時代・様式を象徴する「間」として構成されており、合間には軽食やドリンクの無料休憩所を設けている。すべての間が、その時代の空気・光・音・匂い・建築様式までを再現した「時空の部屋」である。
1階:黎明の間

- ジョット
- ヤン・ファン・エイク
- フラ・アンジェリコ
西洋絵画が変貌を遂げたゴシックの巨匠たちの3枚を展示。石造りの礼拝堂を模した空間には、ステンドグラスの光が差し込み、絵画に神秘的な輝きを与える。静かな聖歌が流れ、祈りのような鑑賞体験ができる。
2階:ルネサンスの間

- ボッティチェリ
- ジョルジョーネ
- ラファエロ
- レオナルド・ダ・ヴィンチ
- ミケランジェロ
西洋絵画史に燦然と輝くルネサンスの精華が咲き誇る階。《ヴィーナスの誕生》《モナ・リザ》など、絵画はすべて天井に展示。《最後の晩餐》をイメージしたテーブルがあり、座って絵画を味わう。ここでは“崇高”という言葉の本当の意味を体感できる。
3階:バロックの間

- カラヴァジォ
- ベラスケス
- ラ・トゥール
イタリア、スペイン、フランスの偉大なバロック期の画家の代表作を堪能する。内装もバロック様式を踏襲。
光と影、激情と沈黙。ドラマチックな空間演出で、絵画に吸い込まれるような没入体験を演出。
4階:革命の間

- ゴヤ
- ドラクロワ
- ターナー
- クールベ
近代社会の胎動と革命の時代。戦争と民衆、自然と労働。《マドリッド、1808年5月3日《民衆を導く自由の女神》《戦艦テメレール号》など18世紀から19世紀にかけての偉大な画家たちの傑作を展示。
壁も床も荒れ果てた戦場をイメージした展示空間。焼け焦げたような壁、音なき銃声の残響。重く沈んだ空気の中で、絵の叫び声が響く。
5階:印象派の間

- ミレー
- ドガ
- セザンヌ
- ルノワール
- スーラ
絵画様式で最も好きな時代・印象派の前後の時代の傑作を展示。
外光を描いた画家たちと共鳴すべく、ここは“船上の展示室”。波の音、揺れる床、風の匂い。光そのものを浴びるような体験ができる。絵画の大航海時代へ突入。
6階:エコール・ド・パリの間

- ユトリロ
- モディリアーニ
- 藤田嗣治
絵画史に名を残す異邦人の画家たちがパリに集まったエコール・ド・パリの間。
異邦人たちが夢見た“パリ”の幻影。キャバレー、ムーラン・ルージュ、煙と酒とジャズの香り。ミニステージではショーも開催される。ここはアートと人生が交差する「サロン」である。
7階:混迷の間

- クリムト
- ムンク
- シーレ
- マティス
- ダリ
- パウル・クレー
- アルフォンス・ミュシャ
- エドワード・ホッパー
20世紀の心理と混沌。クリムトの黄金様式に包まれた壁、ホッパーの孤独な深夜のアメリカン・ダイナー形式の空間。夢と記憶と時間のゆがみが錯綜する、精神の迷宮。
クリムト《抱擁》、ムンク《叫び》、マティス《ダンス》、ミュシャ《四芸術:ダンス》、エドワード・ホッパー《ナイトホークス》
8階:大和魂の間

- 歌川広重
- 葛飾北斎
- 川瀬巴水
- 山下清
- 岡本太郎
西洋から東洋へ。我が国ニッポンの名画たち。畳敷きの和室、障子越しの光、遠くに響く鐘の音。浮世絵から山下清《長岡の花火》など現代アートまで、日本の“間”の美学を体現した空間。訪問者の歩みが自然と静かになる。
9階:フラワー絵画の間

テーマは「絵画の花・花の絵画」。地面は草花で覆われ、天井からも花が咲きこぼれる。壁を飾るのは、名画に描かれた花々ばかり。
生命の香りと色に包まれたこの空間では、鑑賞というより“共に咲く”ような感覚になる。
第七天国
標高5000メートルの美術塔。その頂に近づくにつれ、空気は薄く、心は澄んでゆく。
ここから先は、選ばれし7人の画家のためだけに用意されたフロア。
“天国への階段”を一歩ずつ登るたび、鑑賞者の感覚は現世を離れ、芸術と魂が交差する領域へと誘われる。
10階:ピカソの間

ピカソの愛したスペインの闘牛場を模した円形の劇場型空間。赤と黒、砂と影の色彩が渦を巻き、作品は競技者のように、見る者に挑みかかってくる。
壁面には《アヴィニョンの娘たち》《ゲルニカ》《老いたギター弾き》など、時代ごとのピカソが5枚並ぶ。中央には闘牛士のごとくパブロ・ピカソの自画像が立ち、空間ごと“ピカソの爆発”を体感できる。
11階:アンリ・ルソーの間

深い緑と密やかなざわめき。現実よりも生き生きとした熱帯。パントル・ナイーフ(素朴派)の画家アンリ・ルソーの絵画に描かれた動物たちが、風とともに香り立ち、鳴き声を交えて観る者を惑わせる。
湿気を帯びた空気、少しぬるい光。夢なのか、現実なのか。
12階:カンディンスキーの間

壁も天井も床も、幾何学と線、色の波動で満たされた空間。カンディンスキーの抽象絵画は視覚を超え、音楽として響く。《自らが輝く》《コンポジションⅧ》《印象Ⅲ(コンサート)》
展示空間には仕掛けがあり、各作品の前に立つと微細な音が流れ出す。「色」を「聴く」体験。絵を見ることは、世界の構造に触れることだと実感する、空間ごと鳴り響くホール。
13階:モネの間

ジヴェルニーの庭を再現した温室のような空間。睡蓮の池、柳の葉、濡れた石畳、風にそよぐ草花。そして、壁面には《印象、日の出》《ジヴェルニーの積みわら》《日本の橋》《散歩、日傘をさす女》などが並ぶ。
時間帯によって照明の色温度が変わり、作品の表情もわずかに揺れる。モネと共に、光の呼吸を味わう空間。
14階:フェルメールの間

窓から差し込む自然光の中、静寂を抱くアトリエが広がる。再現された空間は、フェルメールの画中の部屋。《デルフトの眺望》《真珠の耳飾りの少女》《牛乳をそそぐ女》《絵画芸術》の4枚。どれもが音を立てず、呼吸を止めている。
ここでは、鑑賞者自身が「静けさ」に照らされる。不思議な魔法が働く部屋。
15階:レンブラントの間

場内は真っ暗。ごく控えめな照明が、レンブラントの4枚の絵画だけを浮かび上がらせている。《夜警》《ユダヤの花嫁》《二つの円のある自画像》《放蕩息子の帰還》。
光と影のなかに、苦悩、赦し、愛、そして老いが息づいている。この部屋にいると、自分の顔の内側まで照らされている気がしてくる。絵画というより魂の鏡だ。
16階:ゴッホとテオの間

塔の頂、最上階には、兄ヴィンセントと弟テオ、ふたりのための空間がある。ゴッホ美術館の女性ガイド・ファニーは言う。「フィオ(テオのこと)がいなければゴッホの作品は生まれなかった。私たちオランダ人にとって、フィオもスーパーヒーローなの」
壁も天井も、青と黄色のうねりで彩られ、《星月夜》のなかに入り込んだかのよう。
ゴッホの11枚の絵が語りかける愛しさ、祈り、孤独、そして希望。すべてを受け止め続けたテオが、この空間ではもうひとりの“画家”として存在している。観る者は絵と、そしてふたりの魂と、静かに会話を始める。
美術館メシ
17階:カフェ・チョモルンマ

腹が減っては絵も見れぬ。芸術に満たされた心と、空腹の胃袋を同時に満たす聖域。それがカフェ・チョモルンマ。
ネパールの伝統料理「ダルバート」一択の勝負メシ。地元の豆・米・カレーを、エヴェレストを望む絶景テラスで味わえるヒマラヤのキャンプ飯。
飲み物は世界中のリキュールが揃う。標高のせいで酔いが回るのも早い。絵の余韻をそのまま身体に溶かすような時間をどうぞ。
18階:屋上テラス

屋上に出ると、そこは「空」。テーブルにはキャンドル、遠くには白銀のエヴェレスト。夕焼けに染まる山脈、夜にはスーパームーン。

誰かと来ても、ひとりで来ても、ここはすべてを受け入れてくれる。絵を見たあと、語る言葉のない時間を過ごすのに、これ以上の場所はない。
絵画作品リスト

- ジョット《小鳥への説教》
- ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻像》
- フラ・アンジェリコ《受胎告知》
- ボッティチェリ《ヴィーナスの誕生》
- ジョルジョーネ《眠れるヴィーナス》
- ラファエロ《小椅子の聖母》
- レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》
- ミケランジェロ《最後の審判》
- カラヴァジォ《いかさま師》
- ベラスケス《ラス・メニーナス》
- ベラスケス《バッカスの勝利》
- ラ・トゥール《煙草を吸う男》
- ゴヤ《裸のマハ》
- ゴヤ《マドリッド、1808年5月3日》
- ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》
- ターナー《戦艦テメレール号》
- クールベ《波》
- ミレー《晩鐘》
- ミレー《種をまく人》
- ミレー《夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い》
- ミレー《落穂拾い》
- ドガ《エトワール》
- セザンヌ《サント゠ ヴィクトワール山》
- セザンヌ《りんごとオレンジ》
- ルノワール《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢》
- スーラ《グランド・ジャット島の日曜日の午後》
- ゴーギャン《屋根裏部屋の自画像》
- ユトリロ《モンマルトル》
- モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》
- 藤田嗣治《寝室の裸婦キキ》
- 藤田嗣治《ドルドーニュの部屋》
- クリムト《抱擁》
- クリムト《接吻》
- ムンク《叫び》
- ムンク《太陽》
- シーレ《ほおずきの実のある自画像》
- マティス《ダンス》
- ミュシャ《四芸術:ダンス》
- ダリ《ポルト・リガトの聖母》
- ダリ《パンの籠》
- ダリ《記憶の固執》
- パウル・クレー《山への衝動》
- パウル・クレー《双子》
- ジョアン・ミロ《農場》
- ジョアン・ミロ《花と蝶》
- ジョアン・ミロ《オランダの室内Ⅰ》
- エドワード・ホッパー《ナイトホークス》
- 歌川広重《東海道五十三次・原宿》
- 歌川広重《東海道五十三次・日本橋》
- 歌川広重《東海道五十三次・庄野》
- 歌川広重《東海道五十三次・蒲原宿 夜之雪》
- 葛飾北斎《冨嶽三十六景・山下白雨》
- 葛飾北斎《冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏》
- 入江長八《寒牡丹》
- 川瀬巴水《駿河由比町》
- 山下清《長岡の花火》
- 岡本太郎《夜明け》
- 安田靫彦《飛鳥の春の額田王》
- ルドン《日本風の花瓶》
- パブロ・ピカソ《コリーダ:闘牛士の死》
- パブロ・ピカソ《ゲルニカ》
- パブロ・ピカソ《老いたギター弾き》
- パブロ・ピカソ《フェルナンド・オリヴィエの肖像》
- パブロ・ピカソ《アヴィニョンの娘たち》
- アンリ・ルソー《眠るジプシー女》
- アンリ・ルソー《夢》
- アンリ・ルソー《ラ・カルマニョール》
- カンディンスキー《自らが輝く》
- カンディンスキー《コンポジションⅧ》
- カンディンスキー《印象Ⅲ(コンサート)》
- モネ《印象、日の出》
- モネ《ジヴェルニーの積みわら》
- モネ《日本の橋》
- モネ《散歩、日傘をさす女》
- フェルメール《デルフトの眺望》
- フェルメール《真珠の耳飾りの少女》
- フェルメール《牛乳をそそぐ女》
- フェルメール《絵画芸術》
- レンブラント《夜警》
- レンブラント《ユダヤの花嫁》
- レンブラント《二つの円のある自画像》
- レンブラント《放蕩息子の帰還》
- ゴッホ《花咲くアーモンドの木の枝》
- ゴッホ《ひまわり》
- ゴッホ《ジャガイモを食べる人々》
- ゴッホ《アニエールのレストラン・ド・ラ・シレーヌ》
- ゴッホ《夜のカフェテラス》
- ゴッホ《アルルの寝室》
- ゴッホ《ローヌ川の星月夜》
- ゴッホ《坊主としての自画像》
- ゴッホ《星月夜》
- ゴッホ《ドービニーの庭》
- ゴッホ《黒い鳥のいる麦畑》
空前絶後のアート本、登場!

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