
熱海には、東洋美術を中心とした日本屈指のミュージアム「MOA美術館」がある。驚くべきことに、そこから徒歩40分ほど、相模湾を望む場所に西洋美術のミュージアム「熱海山口美術館」が存在する。一日で東洋と西洋、ふたつの美術をハシゴできる贅沢な立地だ。
熱海山口美術館は、2020年12月18日に開館した私立美術館。創設者・山口伸廣氏が長年かけて集めた約2,000点のコレクションを展示しており、現在も収集は続いている。玄関では岡本太郎の《河童神像》が来館者を迎えてくれる。

場所は熱海駅から徒歩約20分。国道135号沿いにあり、昭和の香りを残すスナック街の向かい側に建っている。

銀座にあるような画廊だが、マンション。3階より上は地元の人が住んでおり、館内を巡っていたら住民とすれ違う。

展示室は全部で11あり、2階はマンションを一室に美術品を飾っている。

1階、初っ端からルノワールの展示。熱海山口美術館の絵画は全部ガラスケース展示。

《少女像》。画風はルノワール風だが、良いと思ったルノワールは、もっとタッチが柔らかい印象を受けた。やや筆致が硬い。

次がバンクシーのコーナー。ブロックの壁の背景がいい。高田馬場にはバンクシーの絵画に囲まれたラーメン屋さんがあったが、不思議と似合っていた。

映画『パルプ・フィクション』のパロディ。拳銃をバナナのようなものに変えているが、あまりセンスがいいとは思えない。アンディ・ウォーホルならユマ・サーマンをモデルにしただろう。

2階は彫刻スペース。

階段脇に岡本太郎。パブリックアートが似合う岡本太郎。

西洋美術だけでなく東洋美術もある。横山大観や橋本雅邦、上村松園など日本画のビッグネームが並ぶ。

初めて観た東洲斎写楽。インスタグラマーとしての才能がある。

マンションの中に千手観音立像、阿弥陀如来立像があるカオス。美術というのは愉しければいい。創設者の山口氏がアートの興味を持ったのは、小学生のときに描いた絵が「うまい」ではなく「面白い」と言われたから。エンターテイメントも立派なアート。

現代美術の部屋には草間彌生。

村上隆の作品も。3Dプリンターで複製して、子どもが触って遊べるようにして欲しい。

岡本太郎記念館にもある《坐ることを拒否する椅子》には座れる。

熱海山口美術館の最大の目玉「ジョルジュ・ルオー」の部屋。

《キリストと漁夫》。僕の師匠はルオーが好きなのだが、あまり良さが分からない。今回の展示で「いつかわかるかもしれない」という気持ちになった。

素晴らしいと思ったのは《秋》。力強い太い線、稲穂そのもの。裸の女性たちは、恥じらいがなく、誇りに満ちており、稲穂の「豊穣」「母性を捉えている。女は大地に命を産み落とし、愛おしい人生を天に向かって育む。モノクロにしていることで、原始からの普遍が溢れている。

隣にはカラーのバージョンもあるが、モノクロのほうが良い。

ルオーの部屋には、しれっと藤田嗣治の《聖母子像》もある。肌が白く、背景がゴールド。金は神聖さや永遠性を象徴し、後光のように人物を包んでいる。だが、それ以上に神々しのは肌の白さ。母乳という命を育む源も白であり、尊いのは神の威光ではなく、人間。赤ちゃんにとって、母親とは神と同義。

最後はピカソと岡本太郎の部屋。入り口のOKAMOTOから始まり、最後もOKAMOTOで締めくくられる。

珍しいのはピカソの皿が多いこと。

あまり良いと思わないが、きっと高いのだろう。そして、この皿が布石になっている。

熱海山口美術館の入館料1400円には、ワンドリンク、絵皿体験がついている。「学べる美術館」として運営しているからである。

マーカーで自由に絵を描き、電子レンジで5分チンする。

ゴッホの《ひまわり》を描いた。パスタを作るときの調味料を入れる小皿に使っている。

レンチンしている間にワンドリンクの抹茶を頂く。オトナよりも子どもに多く訪れてほしい。熱海にある、自由で、ユニークで、ちょっと不思議な美術館。
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