アートの聖書

美術館巡りの日々を告白。美術より美術館のファン。

《モンマルトルの菜園》〜ゴッホの風車と郷愁の丘、遠いオランダ

《モンマルトルの菜園》〜ゴッホの風車と郷愁の丘、遠いオランダ

  • 英題:Vegetable Gardens In Montmartre
  • 別題:モンマルトルの野菜園
  • 作者:ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
  • 制作:1887年3月-4月
  • 技法:油彩、カンヴァス
  • 寸法:113.5x146 cm
  • 所蔵:アムステルダム市立美術館

ゴッホの全作品の中で最も大きなサイズの絵画。風景画の大傑作。ゴッホとモンマルトルの関係性を表す一枚。風来坊や異邦人ほど望郷が強い。

f:id:balladlee:20250707194058j:image

1914年にゴッホの義妹ヨハンナが売却し、アムステルダム市立美術館のコレクションとなった。

絵画レビュー

《モンマルトルの菜園》〜ゴッホの風車と郷愁の丘、遠いオランダ

アムステルダム私立美術館の展示

この絵には、大きさに見合うだけの、想いの重みが詰まっている。異邦人であるゴッホにとって、モンマルトルは心の拠り所であり、望郷の地。

すべての線が、風車に向かってのびていく。畝も道も、柵も空も、筆の一閃ひとつひとつが、ひとつに収束していく。風車こそがこの風景の中心であり、心の羅針盤。

ゴッホはモンマルトルの丘に立ちながら、目の奥ではオランダを見ていた。乾いた土にスケッチブックを広げる姿は、風と戦うドン・キホーテ。その戦いは誰のためでもなく、自分の中の“原風景”と向き合うための旅。

ここには、静けさと懐かしさ、そして風の音がある。色彩は震え、筆致はざわめき、すべてが郷愁を語っている。モンマルトルの風に乗せて届いた、ゴッホからの手紙。

ゴッホが描いたモンマルトル

《モンマルトル、ムーランドラギャレットの裏》

ゴッホ《モンマルトル、ムーランドラギャレットの裏》ゴッホ美術館

第4回のアンデパンダン展に出品した絵。「裏」というタイトルにゴッホがあらわれる。自画像や静物画を多く描き、パリの中心で都会の喧騒を描くのではなく、モンマルトルから眺めるパリの屋根を多く描いた。ゴッホが好んだのは、モンマルトルやアニエールなど静かな町だった。

ただ美しい風景ではなく、「人が立つ場所」「生きる場所」「想いが残る場所」、モンマルトルの風景には、静けさとにぎわい、開放感と切なさが同時に息づいき、ゴッホの眼差しが呼吸をしている。

《モンマルトル、風車と菜園》

《モンマルトル、風車と菜園》ゴッホ

大部分が空。空疎、空虚、そして風車の郷愁。パリの北端、花の都の喧騒から少し離れた丘の上。そこにあったのは、街ではなく風車と畑。

ゴッホはこの場所を好んだ。華やかな都会に背を向け、風の抜ける土のにおいに惹かれていた。

風車は回っているようで、止まっている。動きがなくても、時間が流れている。その静けさのなかに、故郷オランダの影がうっすら重なる。見ているのはモンマルトル、心のなかにはオランダの風が吹いている。

華やかさに背を向けた男の誠実さ。それが筆に宿る。ひねくれ者だが、自分の好きなことに誠実。だからゴッホはゴッホになれた。

《モンマルトルの丘》

ゴッホ《モンマルトルの丘》

ゴッホがモンマルトルに住んで、すぐに描かれたもの。時季は春だが、赤褐色と茶黄色を基調とした落ち着いた秋の色はオランダ時代の色調を思わせる。

構図は安定していて、空と地面のバランスが心地よい。
光の描写に派手さはないが、静けさと確かさがあり、見ていて落ち着く風景画。

《モンマルトルの小道》

ゴッホ《モンマルトルの小道》

  • 制作:1​​886年4月 - 5月
  • 寸法:22.2 cm x 16.3 cm
  • 所蔵:ゴッホ美術館

同じくゴッホがモンマルトルに住んで、すぐに描かれたもの。オランダ時代も同じ構図の小道を何度も描いている。穏やかな坂道に、木立と空の色が柔らかく溶け合い、夕暮れの空気感を優しく伝えてくる。自分も絵の中を歩いているような感覚になる。

《石切り場のあるモンマルトルの丘》

《石切り場のあるモンマルトルの丘》

  • 制作:1​​886年6 月~7 月
  • 寸法:56.3 cm x 62.6 cm
  • 所蔵:ゴッホ美術館

モンマルトルの採石場と製粉所。なんでもない牧歌的な風景だが、厚みある雲と斜面の傾きがダイナミックさを演出している。控えめな色調も、むしろ土地の重みと空気感を際立たせている。

《モンマルトルの通りの風景》

モンマルトルの通りの風景,ゴッホ,1887年

  • 制作:1​​887年
  • 所蔵:個人蔵

2021年、パリのサザビーズでオークションで1300万ユーロ(16億7千万円)で落札された作品。

風車と柵、冬木立がつくる素朴な風景。大人と子どもが、未来と過去の対比。寒空の下に柔らかい時間を描き出している。

《モンマルトルの夕陽》

ゴッホ《モンマルトルの夕日》

  • 制作:1​​887年2月 - 3月
  • 寸法:21.5 cm x 46.4 cm
  • 所蔵:ゴッホ美術館

横長のパノラマ。青に沈む街と、仄かな夕陽、煙突の煙の淡さがやさしい。なだらかな斜面と揺れる木々が、風の気配をさりげなく伝えてくる。静寂と人間の営みが遠くで交差する風景画。

《クリシー大通り》

ゴッホ《クリシー大通り》

  • 制作:1​​887年3月~4月
  • 寸法:46 cm x 55.5  cm
  • 所蔵:ゴッホ美術館

クリシー大通りは、多くの芸術家が住んでいたパリのモンマルトル地区の通り(ゴッホとテオのアパートはレピック通り)

点描画の筆のリズムがやわらかく、寒さのなかにも都会の空気に温もりを与えている。夏に描いた《アニエールのレストラン・ド・ラ・シレーヌ》に通じる一枚。

《ひまわりのあるモンマルトルの小道》

ゴッホ《ひまわりのあるモンマルトルの小道》

カリフォルニア州にあるリージョン・オブ・オーナー美術館の所蔵。1​​887年6月の制作。路上を描いた最初の向日葵と思われる。

紫がかった空と、渋めの黄緑・黄土色を基調に、柔らかな色調。光が強く降り注ぐ南仏ではなく、パリ近郊の曇天のような落ち着きのある空気感。ヒマワリが、絵の「主語」ではなく、「息遣い」として生きている。

《ひまわり畑》

ゴッホが最初に描いた《ひまわり畑》

ゴッホ美術館の所蔵。1​​887年6-7月。描かれたのはモンマルトルの丘。オランダ時代に描いた《女性の頭部》の裏のカンヴァスに描いている。

花自体は控えめだが、茎や葉のしなやかで力強いライン。ゴッホは「花」そのものではなく、「立っていること」自体に存在意義を見出している。人間のように風に揺れながら、その場に根を張っている。

右奥に佇む人物、格子の境界線があることで、ヒマワリの大きさや存在感がより際立つ。視線が交錯することなく、お互いが静かにその場を共有している構図が、絵に余白を生んでいる。

空前絶後のアート本、登場!

美術館に行く前に読むと、絵の見方が180度変わります。『アートは燃えているか、』は、図版なしで名画をめぐる“言葉の美術館”です。絵を観る天才が何を語るのか、その眼で確かめてください。
→ 書籍の詳細を見る [アートは燃えているか、]

ゴッホ以外の画家が捉えたモンマルトル

ユトリロ《モンマルトル》

1928年。モンマルトルのサクレ・クール寺院と通りを描いた遠景。ユトリロが45歳頃の作品。サクレ・クール寺院は母のおっぱい。ユトリロの白は母乳。母親の面影、愛情、求愛をカンヴァスに塗りたくっている。だからユトリロの白には郷愁がある。生命力がある。包容力がある。藤田嗣治の高貴な乳白色とは違う。ユトリロにあるのは母性。命を宿し、命を育む力がある。ユトリロが街を漂白するのは、風景を白く堕とすため。無にするため。スタートを切り直すため。生まれ直すため。この絵を観るあなたが自由にドラマを宿しなさい、感性を育てなさいというメッセージ。だからユトリロは白を生きる。どこまでも永遠の白を疾る。

空前絶後のアート本、登場!

美術館に行く前に読むと、絵の見方が180度変わります。『アートは燃えているか、』は、図版なしで名画をめぐる“言葉の美術館”です。絵を観る天才が何を語るのか、その眼で確かめてください。
→ 書籍の詳細を見る [アートは燃えているか、]

オランダの美術館

ゴッホの花の傑作選

ゴッホ展

その他のゴッホ作品

ゴッホに逢える日本の美術館

《ひまわり》

《ドービニーの庭》

《ばら》

《座る農婦》

《一日の終り》《石膏トルソ(女)》

原田マハの本

ゴッホの映画

日本のおすすめ美術館

東京のおすすめ美術館

妄想ミュージアム『エヴェレスト美術館』