野球の国際大会『プレミア12』を追いかけて愛知県に来た。2024年の11月9日と10日。今年は野球場、温泉、美術館が旅の3点セット。新宿から深夜バスに揺られ、快晴の早朝6時前に豊田市に到着。マクドナルドで時間を潰し、豊田市美術館に向かった。
豊田市美術館
トヨタ自動車の企業城下町である豊田市。工業地帯でありサッカーの豊田スタジアムなど熱い地域でもある。そこに静かな豊田市美術館がある。
美術館には珍しく小高い丘、線路沿いにある。遠くに豊田スタジアムや愛知高原が見渡せる。
1995年(平成7年)の開館。設計は建築家・谷口吉生。東京国立博物館、法隆寺宝物館、ニューヨーク近代美術館新館など有名建築を手掛けている。
鉄とガラスのシンプルな形態のモダニズム建築。
名物は屋上にある空中水園の散歩道。木と草を極限まで刈りとった、自然を引き算したアート空間。ミュージアムの外観として日本トップクラス。
常設展示室
豊田市美術館のコレクションの目玉は2つ。グスタフ・クリムトとエゴン・シーレの師弟を並べる贅沢、喝采。
初めて観るクリムトの作品。女性の描き方が丁寧。
シーレが28歳で亡くなる1年前の作品。光ではなく闇という照明を当てたシーレ。眼に力があるクリムト、シーレが描く手には、絵と握手をしているかのような握力、生命力が宿っている。
シーレはゴッホに比肩する画力と強さ。両者の最も大きな違いは画題。ゴッホは奇人、狂人扱いされるが、各地を旅して自分の足で画題を獲得した。絵師は筆力の芸術家と思われているが、足で稼ぐアーティスト。もっとシーレの作品を観たかった。
【美術館メシ】レストラン味遊是
豊田市美術館のレストラン味遊是。
愛知高原を望みながら食事ができる。リーデルのモンラッシェ・グラスのグリップ力の強さがエゴン・シーレを思い出させる。
カボチャのスープはクリムトの黄金の背景。
「味遊是(ミュゼ)ランチ」1800円。何気に焼きたてのパンのアツアツがメインの豚料理より美味い。
愛知県美術館
愛知県美術館は1992年(平成4年)開館。歓楽街・栄駅の目の前にあり、クリムトやピカソなど8700点を所蔵。愛知芸術文化センターにあり、芸術劇場や文化情報センターとセットになっている。
8階から12階がミュージアムという珍しい立地。巨大な吹き抜けの回廊で展望台から名古屋を眺望できる。
この日は相国寺展。雪舟、伊藤若冲、長谷川等伯、円山応挙。日本画の侍ジャパンが集結したので大混雑。鳥獣戯画展よりマシだがチケット売り場は長蛇の列。コンビニで買えるらしいので事前購入が良い。
愛知県美術館の目玉がグスタフ・クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》。師匠はクリムト版ドン・キホーテという。不自然な直立、顔のない馬と騎士。チェスの駒のような騎士。ピタリと止まった「静」のなかで、馬の右脚だけが「動」。この絵の騎士は勃起した男根に見えた。黒い馬は陰毛。野原は女性の膣内。騎士は精子であり、これから生命を宿しにいくのか、それとも滅びにゆくのか。クリムトの手強さを象徴する作品。
ピカソが手放さずに愛蔵したらしいが青の時代の作品としてはイマイチ。
モディリアーニ、マティス、デュフィもイマイチ。
この美術館の最高傑作はマックス・エルンスト。まさに灰とダイヤモンド。美しさと儚さのグラデーション。