アートの聖書

美術館巡りの日々を告白。美術より美術館のファン。

ミレー《夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い》〜地平線は回帰線、落陽と黎明のあいだに

ミレー《夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い》

  • 英題:The Return of the Flock
  • 作者:ジャン=フランソワ・ミレー
  • 制作:1857-60年
  • 寸法:53.5×71.0cm
  • 技法:油彩・板
  • 所蔵:山梨県立美術館

《夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い》は、1867年の万国博覧会に出品された油彩画。黄昏の空の下、自然の中に身をおく羊飼いの姿が描かれている。

ミレーは1850年代から1860年代にかけて、羊を連れ帰る羊飼いの主題を好んで描いた。帽子をかぶった羊飼いは、寒さに耐えるように厚手のマントを前でかき合わせている。従順な羊たちは群れとなり、羊飼いのあとを静かに続く。牧羊犬を従え、杖を手にマントをまとった羊飼いの姿は、繰り返し描かれた。

羊飼いは農民とは距離を置かれた存在だったが、聖書の中では「聖なる賢者」として描かれている。知恵を備えた人物とされ、ときに旅人が道を尋ねることもあった。

絵画レビュー:ミレー《夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い》

《晩鐘》《落ち穂拾い》《種をまく人》と並ぶ最高傑作。

羊飼いも羊たちも、どこか疲れた顔をしている。浮かないその表情に、夕焼けがやさしく語りかける。「またおいで」と。労働という地平線、地平線という虚無。羊飼いは歩みを止めず、帰っていく。

帰るとは、再び来ること。地平線は終わりではなく、回帰の道しるべ。陽が沈むとは、同時に陽が昇ることでもある。落陽の影に黎明の気配が溶け込み、暗闇の中に明日の光がひそやかに芽吹いている。

地平線は回帰線。陽が沈むということは、日はまた昇るということ。これは落陽の絵であり、同時に黎明の絵である。

《羊飼いの少女》との比較

《羊飼いの少女》1863年、オルセー美術館

ミレーの《羊飼いの少女》と《夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い》は、同じ「羊飼い」を描きながら対照的な世界を見せている。

少女は広い空を背に立ち止まり、静かに群れを見守る。そこには時間の流れが凍りついたような静寂があり、声なき祈りが漂う。一方、夕暮れの羊飼いは歩みを進め、赤く沈む太陽の下、犬と羊を従えて帰路につく。そこにあるのは一日の労働を締めくくる疲労と安堵である。

静と動、孤と群、薄明と落陽。二つの絵は正反対に見えながら、どちらも「生きて働く」という営みの循環を語っている。立ち止まることも、歩み続けることも、どちらも人生の真実なのだ。

 

ミレーの傑作絵画

日本のおすすめ美術館

東京のおすすめ美術館

神奈川のおすすめ美術館

オランダおすすめ美術館

妄想ミュージアム『エヴェレスト美術館』

ゴッホの画業と炎の伝説

ゴッホの画業と代表作

フェルメールの画業と全作品解説

ピカソの傑作絵画と画業

藤田嗣治の傑作絵画

クリムトの生涯と代表作

ジョルジュ・スーラの傑作絵画