
- 英題:Portrait of Elisabeth Lederer
- 作者:グスタフ・クリムト
- 制作:1914〜16年
- 寸法:180 × 128 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:個人蔵
ウィーンでロスチャイルド家に次ぐ第2の富豪だったレーデラー家が、クリムトに当時20歳だった一人娘のエリザベートを描くよう依頼した肖像画。
その後、ナチスの迫害を受けたエリザベートはユダヤ人でないことを証明するため、父がクリムトであるなどの虚偽証言をし、1944年に亡くなるまで生き延びる。
この絵は、2025年11月18日にニューヨークのザザビーズが開催するオークションで、落札価格が1億5000万ドル(約219億円)を上回ると予想されていた。
その理由として、クリムト晩年の希少な全身立像で、私人所蔵の大作としては極めて珍しく、保存状態や展覧歴も良好。大きなサイズと緻密な装飾性に加え、ナチス迫害やレーデラー家の運命といった歴史的背景を伴い、物語性が市場価値を高めている。さらに公開市場に初めて登場し、著名コレクター(レナード・ローダー)による所有や明確な来歴も相まって、オークションでの高騰が予想された。
しかし、蓋を開けてみれば、予想を大きく上回り、落札価格は2億500万ドル、手数料込みで2億3630万ドル(約365億円)。

365億円は、2017年のレオナルド・ダ・ヴィンチ《サルバドール・ムンディ》の約508億円に次ぐ、絵画史上2位の高額落札となった。355億円の買い物が凄すぎてピンとこない人のために。
- 地方自治体の運営費1年分
- ノーベル賞の賞金280人分
- 4000万円の家が9,000軒、買える
- 2000万円のフェラーリ1800台
個人の買い物というより、街が丸ごと造れる小さな国のプロジェクトである。
絵画レビュー:蝶々になったレディと謎の背景

この女性、どう見ても普通のポーズじゃない。胴はにゅーっと長く、腕は体に貼りつき、足元は小さくまとまっている。人間というより「蝶々の標本」みたいだ。衣装も透ける布に渦巻き模様がいっぱいで羽化したばかりの蝶を思わせる。肖像画なのに「はい、蝶になりました」と宣言しているようで面白い。
背景を見れば、さらに不思議さが増す。左右には東洋風の人々が行列を作っていて、京劇なのか能なのか、何の場面かさっぱりわからない。でもこの「よくわからなさ」が効いている。豪華な衣装の人たちが脇役としてうごめく中、中央の女性は堂々と立っている。「異国の祭りの真ん中で、私だけは別格よ」と言わんばかりだ。
結局、この絵から連想するのは「人間が蝶になる瞬間のショー」だ。少女でも大人でもない。成熟の一歩手前。その魅惑こそ、人生に一度しかな蜜の味だとクリムトは語っている。まるで順位だけ競うフェイ・ダナウェイ。夕飯も食べずにダイエットフードのSUPER GIRL。
もうひとつの絵画レビュー:蝶になる前のSuper Girl

クリムトは20歳の女性を、完全な大人でも少女でもない曖昧な境界線として描いている。体のバランスはやや不自然で、胴体は引き伸ばされ、両腕や手の位置もぎこちなく、妖精のように見える。これは写実の狂いではなく、「人体を装飾の一部」として扱う意識の表れである。
衣装もまた奇妙。白地に渦や円を散りばめた薄衣は、蝶の羽根のように広がり、身体の輪郭を曖昧にする。クリムトは、衣装を着せるのではなく、模様そのものに人物を溶かし込むことで、人物画と抽象画の境界を探っている。
背景には、東洋趣味を思わせる人物や文様が並ぶ。中国や日本の劇、能や京劇を連想させ、当時のウィーンで流行していたジャポニスムや東洋趣味を反映している。それは、写実的な引用ではなく、あえて「異国の舞台装置」のように挿入され、異質な空気を漂わせる。背景は「文化的な異国趣味の見世物小屋」として機能し、その中で中央の女性像を一層際立たせている。
構図は上下左右にぎやかな要素を散らしながらも、中央の女性に視線が集まるように設計されている。足元の赤い床模様が舞台のカーペットのように支え、背後の模様や人物群は三角形の配置で存在を強調する。派手な背景にもかかわらず、主役が埋もれないのは、この構図の力による。
この作品の面白さは、写実性から大きく逸脱した不自然さや異国趣味を、あえて「装飾美」としてまとめ上げている点にある。人体の歪みや東洋的な雑多さは、リアルな肖像としては不安定だが、全体の画面としては一種の舞台的効果を生み、観る者を「虚構の華やかさ」に引き込む。
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