
- 著者:原田マハ
- 出版社:幻冬舎
- 発売日:2022年10月26日
- ページ数:192p
原田マハが日本全国の11の美術館を巡り、ミレー、モネ、ルソー、セザンヌ、ウォーホル、東山魁夷、草間彌生などの18の絵と画家と対話しながら、自らのアート鑑賞術を語る一冊。WOWOWで放送された「CONTACT ART」の書籍化。

この本は装丁も素晴らしく、カバーをとった状態も美しい。
濃いブラウン地に金の箔押し。美術書や古典的な西洋画集を思わせる伝統的で格調高い雰囲気が良い。
書評
原田マハはアートは「わたし」のものでも、「あなた」のものでもなく、「わたしたち」のものだと言う。この「わたしたち」に、原田マハの本が「わたしたち」の心を動かす理由が詰まっている。
独りよがりの叫びや、世間の時流に媚を売った本ならば、こんなにも後世に語り継がれることはない。それは、『Contact art 』に登場する絵画も同じ。絵は画家の魂の叫びではあるが、それは決して独り言でも暴走でもない。冷静な眼で対象を捉え、その眼差しは、対象物だけでなく絵を観る「わたしたち」をも捉えている。
絵は生みの親の手を離れ、誰かのもとに嫁ぎ、多くの鑑賞者に愛されることで育っていく。原田マハの言うとおり、「わたしたち」が絵を育てるのである。
美術館は「美術感」。理解するものではなく、感じるもの。観ることは想像力を使って「創造」すること。受け身ではなく、クリエイティブなもの。絵画よりも体験がアート。
『Contact art : 原田マハの名画鑑賞術』は、原田マハが日本の美術館を訪れ、画家や絵画と対話したコミュニケーションを綴っている。原田マハからのラブレターであり、それは絵や絵描きだけに向けられたもものではない。この本を読む「あなた」に向けられた「わたしたち」のラブレターでもある。
本に登場する絵画たち
ミレー《種をまく人》

- 原題:Le Semeur
- 英題:The Sower
- 作者:ジャン=フランソワ・ミレー
- 制作:1850年
- 寸法:99.7×80.0 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:山梨県立美術館
私たちも大地に立って一緒に体験しているような気分になります。乾いた空気感、温度や湿度までもが伝わってきます。
この農民は疲れているし、一生懸命やっているのに、仕事が終わらない。その姿は自分にも重なります。けれども「最後まであきらめずにやりきろう」という意志が、私には伝わってきます。空耳かもしれないけれども「自分も頑張ったんだから、君も頑張れよ」という声が聞こえてきて、「負けてられない。明日も頑張ろう」って思うのです。
ドービニー《オワーズ河の夏の朝》

- 作者:シャルル=フランソワ・ドービニー
- 制作:1869年
- 寸法:68.6×100.3 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:山梨県立美術館
爽やかな空気が伝わってきますね。空が広くて水も豊かに流れ、その上を舟が走っていく。なんというのことのない夏の朝の風景です。一日が始まるという爽やかさと、清洌な空気に満ちあふれていて、見ていると吸い込まれそうになります。
絵空事ではなく、いかにもキャンバスの中につくり込んだ世界というよりは、ついさっき目覚めて朝の散歩に出かけてみたら、川辺でこういう風景を目にしました、というような、画家の抒情的で瑞々しい視点が感じられる作品です。
クールベ《波》

- 原題:La Vague
- 作者:ギュスターヴ・クールベ
- 制作:1869年
- 寸法:66.0×91.2 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:島根県立美術館
人生、晴れの日ばかりじゃない。だから、面白い。大変な時もあるし、嵐の日もある。でもだから、人生いろいろあって、深みが出るんじゃないか。荒波を乗り越えて一緒に生きていきましょう、というメッセージを感じる
クロード・モネ《アヴァルの門》

- 原題:The Rock Needle and the Porte d'Aval
- 作者:クロード・モネ
- 制作:1886年
- 寸法:65.0×81.2 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:島根県立美術館
一瞬が、一生だ。一瞬たりとも同じ時間はない。一瞬が一生であると感じながら生きていく、というメッセージを受け取った
クリムト《黄金の騎士(人生は戦いなり)》

- 原題:Goldene Ritter
- 作者:グスタフ・クリムト
- 制作:1903年
- 寸法:100 cm × 100 cm
- 技法:油彩、テンペラ、金箔、画布
- 所蔵:愛知県美術館(名古屋)
アカデミズムや権威に対する挑戦状であり、思うままの表現をしていこうという、時代と戦う姿勢を黄金の騎士に託した絵でした。言い換えれば、新しい時代に向けて自分だけの作品を生み出していくという、ある種のマニフェストでもありました。
自分が新しいことに挑戦する未来には、おそらく覚悟しなければならないことが山のようにある。それが勝ち戦になるかどうかは誰にも分からない、それを彼は、美しい強い決意のもと、悠々と、そしてまた凛々と乗り切っていこうとして、この美しく強い決意の一枚を描いたのではないでしょうか。
そこに血なまぐささや、殺伐としたものや鬼気迫るものは全く感じられず、ただひたすらに美しい。ひたすら優美である。
日本の美術の中で用いられている"金"は、幽玄、つまりむしろ闇を際立たせる使い方をしているように思います。しかし、クリムトが作品の中で使っている"金"は、負けない強さ、どこまでも強く美しい"金"です。昔から変わることなく、人類とともにあり続けた黄金。ゴールドというものを、作品の中で意識的に使うことによって、永遠性をもたらしたいと願っていたのかもしれません。
「美しい」ということは「強い」ということであり、「強い」ということは「美しい」ことなんだ、というメッセージを作品から強く感じるのです。「<強い>は<美しい>の同義語である」というメッセージを受け取りました。だから強い人はきっと美しい。
セザンヌ《ガルダンヌから見たサント゠ ヴィクトワール山》

- 作者:ポール・セザンヌ
- 制作:1892〜1895年
- 寸法:73.0 x 92.0cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:横浜美術館
展示室に一歩足を踏み入れた瞬間から「あっ」と、今までにない空気が伝わってきました。サント゠ ヴィクトワール山の連作を追っていくと、風景がだんだん人物に見えてくるのです。人格を持って語りかけてくる、その絵画との対話に心からの幸福感を味わいました。それは美しい風景を描いただけでは表現しきれない、人間の強さ、生きることをやめない力。それを彼はサント゠ ヴィクトワール山に込めて描いたのだと思います。
ダリ《ポルト・リガトの聖母》

- 英題:The Madonna of Part Lligat
- 作者:サルヴァドール・ダリ
- 制作:1950年
- 寸法:275.3×209.8cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:福岡市美術館
強さのうちに静けさが感じられ、ダリの作品の中でも特別に澄みきった印象を受けます。研ぎ澄まされた、静かな音楽のような一枚です。
この作品では、人間のいちばんシンプルな感情、愛=人を愛すること、誰かのことを思うことを、一番美しい形にして昇華させています。
「全身全霊で闘ってこそアーティストだ」。この絵の通り、強くて透き通ったメッセージに、私の全身全霊は揺さぶられてしまうのです。
小磯良平《洋裁する女達》

- 作者:小磯良平
- 制作:1939年
- 寸法:72.5×60.5cm
- 技法:油彩・布
- 所蔵:兵庫県立美術館
ひたむきな仕事、ささやかな日常、人生の祝福というメッセージを受け取る
アンリ・ルソー《第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神》

- 英題:Liberty Inviting Artists to Take Part in the 22nd Exhibition of the Societe des Artistes Independants
- 作者:アンリ・ルソー
- 制作:1905-06年
- 寸法:175.0×118.0 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:東京国立近代美術館
原田マハは、ルソーを「いちばんの親友」と語り、この絵を名作中の名作と讃え、何十回も東京国立近代美術館の常設展示室を訪れている。
ルソーは夢に向かって一生懸命頑張るというよりも、むしろ作品を描きながら実際にその夢の世界を生きている。
小説家が読む『Contact Art : 原田マハの名画鑑賞術』─ 絵と人とのガチンコ勝負
原田マハ『Contact Art : 原田マハの名画鑑賞術』。読んだ。読んでしまった。、これはもう「鑑賞術」なんて生ぬるいもんじゃない。むしろ、名画とのガチンコ勝負である。
名画をどう見るか、そんなことは問題じゃない。「見る」という行為が、いかに個人的で、いかに深く、いかに業の深いものか。本書はそこに容赦なく切り込んでくる。
モネ、ピカソ、ゴッホ、ルノワール、カラヴァッジョ─ 巨匠たちの作品を前に、原田マハがどう向き合うのか。彼女はただの説明や解説はしない。解説は単なる足場でしかない。むしろ、名画の前で己の感情をさらけ出し、戦い、絡み、ひとつの物語を編み出す。
この本を読んでわかったことは、絵を見るというのは、目だけでするもんじゃない、ということ。心で見る、感覚で見る、場合によっては魂で見る。そもそも、「鑑賞」とか「理解」とか、そういう頭のいい言葉で処理できるもんじゃない。絵と人との間には、言葉にならない何かがあって、その「何か」をどう掴むか。本書はその問いを突きつけてくる。
だからこそ、読後にふと思う。美術館でぼんやりと名画を眺めているだけでは、本当に「見ている」と言えるのか? いや、見ていないのではないか?
そういう意味で、この本は名画への「入場券」ではない。むしろ、名画に殴りかかるための拳のようなものだ。読めば、どうしても絵を見に行きたくなるし、見た絵に対して自分がどう感じたのか、本気で考えたくなる。そして、その先には─ 何があるのか。
原田マハの本
この本に登場する絵画がある美術館
豊田市美術館(シーレ、クリムト)
福岡市美術館(ダリ、ウォーホル)
横浜美術館(セザンヌ)
島根県立美術館(クールベ、モネ)
山梨県立美術館(ミレー)
日本の美術館ランキング
東京のおすすめ美術館