
- 原題:La Charrette, route sous la neige à Honfleur
- 英題:A Cart on the Snowy Road at Honfleur
- 作者:クロード・モネ
- 制作:1865年
- 寸法:65 cm × 93 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:オルセー美術館(パリ)
23歳のモネは、1864年5月に修行の場だったパリを離れ、ノルマンディー海岸の港町オンフルールへ向かう。そこで友人のバジールや師匠ブータンとともに同じ宿に泊まり、時間や構図を変えて多くの絵を描いた。
《オンフルールの雪道を行く荷車》は、モネが初めて描いた雪の風景画。モネは雪景色を愛し、生涯で140点ほどの雪の絵を残した。

この絵はモネが描く12年前に歌川広重が描いた『江戸名所百景・御茶ノ水』の影響を受けているといわれるが、白の質も構図も大きく異なる。
絵画レビュー:静けさが主役のロードムービー

雪の道は、音の世界だ。歩けばキュッ、車輪はミシミシ、風がひと吹きすればサラサラと騒ぎだす。モネの《オンフルールの雪道を行く荷車》は、踊る雪を全部黙らせてしまう。この絵は、冬のくせに静かすぎる。無音映画だ。
まず、画面の白が尋常じゃない。白は「何もない色」じゃない。モネが塗ると 感情の温度 になる。寒そうな白、柔らかい白、薄曇りの白、雪の重さの白。白だけでドラマを組み立ててしまう。
荷車の後ろ姿がまたいい。決して劇的じゃないのに、ひたすら説得力がある。
「あ、これたぶん日常なんだな」「でも今日のこの一歩はちょっと特別かもな」
雪に沈んだ世界の中で、荷車だけがゆっくり、ゆっくり未来へ向かっている。何が運ばれているのかは描かれない。でも、観る側は勝手に想像を始めてしまう。薪だろうか、食料だろうか、それとも、もっと大事な何かだろうか。
面白いのは、この絵、構図としてはかなりシンプルなのに、視線が勝手に旅をすることだ。雪の道 → 荷車 → 遠くの森 → 空へ
一本道のロードムービーを、無音で再生してくる。しかも道の右側の雪がほんの少し溶けていて、そこだけ“時間”が見える。
「冬にも動いてる何かがあるよ」と囁いてくる。
モネは風景を描いたんじゃない。冬に残った、かすかな生活の温度を描いた。視界が静まり、心が整い、ふと胸に暖かい息が宿る感じ。雪に覆われた世界で、ただ荷車が進む。ただそれだけが、どうしてこんなに美しいのか。
冬という季節が持つ“静かな勇気”を、モネは一枚にして残してくれた。派手な感動はいらない。ただ、静けさが少しだけ強くなる。そんな絵である。
空前絶後のアート本、登場!

モネの最高傑作を決める企画も登場!『アートは燃えているか、』は、図版なしで名画をめぐる“言葉の美術館”です。絵を観る天才が何を語るのか、その眼で確かめてください。
→ 書籍の詳細を見る [アートは燃えているか、]
モネの傑作絵画